※霊長類研究所のサルの実験が国際的に批判を浴びた事件があり、そのことに触れた国会質疑も2回ありました。
Bernadette Bresard 京大霊長研写真
 
第104回国会 参議院科学技術特別委員会 7号 昭和61年05月09日

○高桑栄松君
 (中略)

 では最後の質問をさせていただきますが、実験動物の取り扱いにつきまして、五月二十六日、東京で実験動物の苦痛を考えるシンポジウムというのがあるというんです。文部省御存じだと思いますんで、後であるかないか教えていただきたいと思いますが、そういうふうに私伺ったんです。ところが我々というのは、私を含めまして昔の研究者は、動物実験というものが人間の幸せに奉仕するものですからいじめるという意識はないんですね。注射をして痛がったり嫌がったりしても、それは殺すわけですから当たり前だと思い込んできていたのが、今は動物愛護というところから動物福祉に及んだんです。これはびっくりするんです。一九七六年アメリカではアニマル・ウエルフェア・アクトというのができたんです。これに違反すると千ドル以下の罰金、または状況によっては一年以下の懲役なんて書いてあるんですよ。大変なものです。輸送途中でいじめてもいけないと書いてある。

 ところが日本では、京都の犬山にある霊長類研究所、モンキーの実験をやるのに一々ひっかかれちゃいけないものだから一遍つかまえたらモンキーチェアに――チェアに腰かけさせると立派に見えますが、動かさないで水を飲ませたり、なにを食べさせるけれども、後はそのまま注射したりいろんな実験をする、大変な苦痛である。それを見て帰ったフランスの学者がそれを報告しまして、日本に抗議を申し込んできた。それからそんな動物に愛情を持たないような日本人であったら日本からは物を買うなという不買運動が起きているとか聞いたんです。

 これについて、時間が来たようでございますから、まず文部省はさっきの実験動物の苦痛を考えるシンポジウムについてと、それから、文部省は管下にたくさん持っておられるし、動物実験ガイドラインが出ておりますから、これにどう対処していくのかを聞きたいと思います。それから、厚生省は一番やはり研究の機関としては動物を使うだろうと思うので厚生省にもお伺いをしたい。最後に、総まとめを科学技術庁にお願いをしたいと思うんです。これについてどう対処するのか。例えばガイドラインというふうなことで何か考えていくのか、それともアニマル・ウェルフェア・アクトというふうなものを長官お考えになるかどうか、この辺をひとつ伺いたいと思います。

○説明員(西尾理弘君) 先生御指摘のとおり、この五月二十六日に、日本実験動物学会におきまして東京の都市センターホールで実験動物の苦痛に関するシンポジウムを開催するということになっておるわけでございます。これは我が国の実験動物学者のみならず国語学者も入れまして、一体苦痛とは何かというような基本的な問題にさかのほりながら論議を深めていくということに相なっているように聞いております。

 また、先生から御指摘いただきました京都大学霊長類研究所での猿を使った実験のケースでございますが、これは事実関係といたしまして、この研究所の神経生理研究部門において、猿を保定具で拘束した状態で前頭葉に電極をセットして猿の前頭葉の働きのメカニズム解明のための研究を行っていたということは事実でございまして、またその拘束期間が長期に及んでいたという事実もあります。

 しかしながら、一九八五年に米国のNIHで実験動物のあり方についての指針の改定があって、それを受けまして、猿を不必要に長期間拘束するということについてはできるだけ避けるという方針が出されまして、またそれを受けまして関係の国際学会ではこういう基準から論文審査等を行うようになったというような事態がありまして、これを受けまして霊長類研究所でも本年一月中旬以降、猿の保定具による拘束は実験に必要な時間にできるだけ限って行うということに改善しております。また、同研究所ではこの四月に所内で委員会をつくりまして、実験動物、特に猿の実験に関する指針策定を行いまして、これに基づいて今後一層適切に行っていくという形になっておるわけでございます。

 また、こういう状況にかんがみまして、文部省におきましても、文部大臣の諮問機関である学術審議会の場におきまして、特にバイオサイエンスの研究推進上重要性が高まっている動物実験の適正なあり方ということを審議しつつ、それに加えて、最近の世論の高まりを受けまして、動物実験には動物福祉の、あるいは愛護の精神の観点からも配慮していくということで、そういう観点を踏まえまして、できるだけ早くこの大学等における実験動物のあり方について基本的な考え方をまとめるということになっておるわけでございます。この結果がまとまれば、それを受けて文部省といたしましても、関係大学等に対してこの実験動物のあり方についての考え方を適宜示していきたい、こういうように考えておる次第でございます。

 以上でございます。

○説明員(下田智久君) 厚生省でございますけれども、厚生省では人間の健康を守るという観点が第一でございまして、そういった観点から病気の原因解明あるいは医薬品開発などの研究を強力に進めてきておるところでございます。そういった過程の中で、動物実験というのはどうしても必要不可欠なものであるということを考えておるわけでございます。

 ただ、こうした動物実験に関しまして、現在、欧米諸国で先生御指摘のようにいろんな動きがある、動物愛護といった観点から社会的な関心事にまで高まってきておるということも十分承知をいたしております。したがいまして、当然こういったことに十分留意しまして、実験動物の苦痛をできるだけ減らすといった配慮をしながら科学的な実験が行われるべきであるというふうな基本的な考えでおるわけであります。このため、厚生省におきましては、所管の試験研究機関に実験動物委員会というものを設置いたしまして、適正な実験が行われるように指導しておるところでございます。また、昭和六十年度からは化学物質の毒性を動物実験でやっておりますけれども、その犠牲となる動物をなるべく減らせないか、しかも、科学性を担保できるといった実験方法につきまして研究を現在進めておるといったところでございます。

○国務大臣(河野洋平君) 基本的には、すべてのものが人間のためにあるという思い上がった考え方を持ってはいけないということなんだろうと思います。我々がやっと豊かな社会というものに今生きることができるようになった、そこで実験動物にまで心を向けることができるようになったということであるかもしれません。しかしいずれにしても、我々人類がいかなる境遇にあろうとも、すべての生きとし生けるものと共存をしているという基本的な心構えというものを失ってはならぬというふうにまず考えております。

 私もたまたま先週、放射線医学総合研究所へ参りまして、そこで内部被曝の実験に相当数の実験動物を使っておるのを見てまいりました。非常に複雑な思いで実は見て帰ってきたのでございます。動物を飼育管理いたしますのに、非常にきちっとしたビルディングの中で管理しているわけですが、説明をなさった方のお一人が、ずっとおてんとうさまの光に当たったことがない、実は天井だけでもガラス張りにして日の光を当ててやりたいという気持ちもあったけれども、なかなか予算が許さなかったというような話を伺ったりして、本当に複雑な思いでございました。人間の医学その他に貢献をしてくれる彼らにとって、実験の目的の限度内で彼らにその役割を果たしてもらうということであってほしいと願わずにはおられません。

 今厚生省からもお話がございましたように、実験、研究の手法、手段、方法について、命を奪うのでなくて細胞を取り出すことによってその実験ができるようになるための研究といいますか、そういうものも進んでいるやに伺っておりますし、そうした研究も大いにしなければならぬと思います。また、諸外国がどうこれに対応していくかということも見る必要もあろうかと思いますけれども、日本人の持つ信仰心といいますか宗教心といいますか、そういうものとも合わせながら、私どもこの問題に対処する心構えをつくっていかなければいけない、こう考えている次第でございます。

○高桑栄松君 ありがとうございました。

(以下略)

 

第108回国会 参議院文教委員会 3号 昭和62年05月21日

○高木健太郎君 (中略)

 次は、生命倫理のことでございますが、御存じのように、現在科学が進歩いたしまして、特に医学の進歩が著しいものがございまして、そのためにいろいろの倫理問題が医学の分野で起こっております。昔の家庭には全然なかったような、学ぶことができなかったこと、特別にそれを勉強しなければわからないというような問題がたくさん出てきました。体外受精もそうです。借り腹の問題もございます。あるいは遺伝子の組みかえというようなことも起こってまいると思いますし、また、現在問題になっております脳死とか臓器移植というような問題もございます。あるいはまた、昨年でしたか、研究所あるいは大学におきまして動物実験の動物の取り扱いについて世界の方から、フランスその他からいろいろクレームがついてまいりまして、実験動物の取り扱いにつきまして文部省もいろいろ御苦労をされたということを私は聞いております。

 そういう意味では各大学に医学教育の倫理委員会、医学倫理委員会というようなものができまして、それぞれ倫理委員会で、いろいろの論文を提出する際あるいは実験をする際、そういう場合に倫理委員会の意見を聞いて、そしてこの実験は進めるべきかどうか、あるいはどういう注意が必要かということを倫理委員会で判断をして指導をしているということは御存じのとおりでございます。この間の京都大学の解剖学の教授の調査によりますというと、現在、生命倫理の教育を導入している学校が七割ある。また、講座に取り入れているところが三割ある。これは私非常にいいことだと思います。

 文部省としては、こういう生命倫理の教育につきまして、何か指導なりあるいはそれとの相談なり、そういうシステムをお持ちかどうか。あるいは文部省としてはどうやろうと思っておられるか。特に医科歯科系の大学ですね。そういうものに対して、何か連絡会なりあるいは指導なり、そういうことをしておられるのかどうか。あるいは今後どういうふうな指導をしていこうとお考えになるのか。その点をちょっとお聞きしておきたいと思います。

○政府委員(阿部充夫君) 最近、医学、医療は大変高度化をしてまいりまして、御指摘にもございましたように、脳死の問題であるとか臓器移植だとか、いろいろ人間の生命、死という問題についての大変ぎりぎり詰めた議論なり研究なりということが必要になってきているということは御指摘のとおりであろうと思っております。

 現在各大学で、これは昭和五十九年に、「医の倫理に関する教育の実施状況」ということで文部省が調査をしたところによりますと、医学概論という形でその中で対応しているというのが七一%であるとか、あるいはその他の講義の中で配慮をしているのが八二%、実習面の際にそれに配慮をしているというのが八五%、課外活動でそういう指導をしているというのが六五%というように、各大学やり方はいろいろございますけれども、この問題にほとんどの大学が取り組んで指導をしているというような状況にあると思っております。

 さらに、この問題につきましては、昨年の七月に、文部省の中に医学教育の改善に関する調査研究協力者会議というのを、これはもっと前につくったものでございますけれども、そこでいろいろ御議論をいただきまして、特に当面する医学教育の問題についての御議論をいただいたわけでございますけれども、その中間まとめが昨年の七月に出ておりますが、その中間まとめの中でも、死に臨む患者にいかに接するかということを学ぶということでのターミナルケア、未期医療というような問題についてもその体験が大事だというような指摘等も行っておるわけでございまして、こういった医学教育の改善に関する調査研究協力者会議、いずれ最終報告をまとめていただく予定になっておりますけれども、こういうものを通じて、各大学にお配りをし、各大学での取り組みをお願いをしたいと、こう思っているわけでございます。

 なお、御指摘にございました倫理委員会のようなものもほとんどの大学にできてくるというような状況にございますが、こういった大学にできてきた倫理委員会が、それぞれの大学の中で適切な役割を果たしていただく。同時に、やはり学会等の場でもって相互の連絡をとりながら議論を重ね、適切な医療あるいは医学の研究が行われていくようにというような機運が一層高まってくるということを期待もいたし、また、必要な機会に文部省としても指導等もしていきたい、こう思っている次第でございます。

○高木健太郎君 非常に結構なことだと思いますから、もしまとまったらぜひ私も見せていただきたいと思いますし、今度の医学会総会でもこれは取り上げられた問題でございますので、特に医師に対する国民の信頼は非常に薄くなっている。そういうことはこれは非常に大きな日本にとってはマイナスなわけなんです。そういう意味では、学生のときからそういうことをよく十分教えていくというようにひとつ取り計らっていただきたいと思います。

(以下略)

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