見せかけだけの動物実験

 
世間を騒がせた不祥事の裏に、ずさんな動物実験が存在しました。実態の詳細情報を入手できましたので、ご紹介します。近年動物実験が増加している工学部の問題も垣間見えます。

【寄稿】

■医学部と工学部の連携

 2006~2009年にかけて、某私立大学医療センター移植外科のM元准教授は、某公立大学工学部の学部生、院生を“共同研究者”として、専門外の人間にはどれだけ無意味な実験かわからないようによく考案された動物実験を行っていた。

 同大工学部の責任者K准教授は、移植外科のM元准教授と組んで学生に動物実験をやらせることで、工学部として“類を見ない”と評価される最先端でユニークな研究をしているかのようなパフォーマンスに大変な意味を感じていたようだ。

 学部生は卒論に、院生は修士論文にそれをテーマにし、工学部の教授、准教授、助手たちの前で発表した。工学部の教員達は、医学的なテーマに疎いために、毎年のように、私大で動物実験をした学生達は、論文で拍手喝采の上に「賞」までもらっていた。

 公立大学工学部のK准教授は毎年自分の教室の学生が卒論で賞をもらうことで、内々で高い評価を得ていると学生達は陰でささやいていた。

 また、私大のM元准教授は、准教授として常にいくつかの学会で何らかのテーマで発表をしないと、その身分上、形が保てないために、工学部の学生を利用してこれらの実験をさせていたようだ。知り合いや仲間と立ち上げた小さな学会などで、これらを学生達に発表させていた。

■見せかけだけの実験を行う確信犯

 しかし、その研究は専門分野の人間から見たら全く無意味でお粗末なものだった。使われた動物はラットだ。

 肝臓の細胞を取り出し(このラットは死ぬ)、それを従来法で培養し、培養した数ミクロンの細胞のかたまりを違うラットの脾臓に移植し、数日後に脾臓を摘出して(脾臓を摘出しても縫合すればラットは生き残る)移植した肝臓細胞を取り出しそれを、工学部で開発したフィルム上で培養して顕微鏡で観察する。

 数日後に少し細胞が増えていたり血管の原型ができてくる。そこで「こうして肝臓細胞の培養がもっと完全にできるようになれば、自己肝臓で肝臓移植が可能になり、将来的にドナーからの肝臓に依存せずに患者は生き残れる日が来る」と結論する。

 工学部の教授達は「すごく画期的な研究ですばらしい」と大絶賛だ。

 しかし、実はこのラットを使った実験は28年も前に外科系のジャーナルに載ったものをまったく模倣しただけなのだ。移植外科の准教授は「こんな古い雑誌は誰も覚えてないし持ってる人もいない」と言っていた確信犯である。

 細胞を培養する為のフィルムについても、当時の学生は「大手の企業から実はもっと実用的でいいものが何種類も発売されて実際使われている。我々のは、それにすこし手を加えて違うものにしているけれど、実際、販売されているものの方が全然出来が良く、我々のフィルムは本当に卒論の為だけの形だけのもの」と告白していた。

■なぜ無意味な殺戮が行われるのか?

 この実験にからむ人々は全員それぞれに自分の「利」がある。おわかりいただけるだろうか。

 外科のM元准教授は、定期的に外科学会に自分の指導のもとに行われた研究発表があることで形が保てる。公立大のK准教授は、自分の教室の学生が毎年卒論で受賞し、准教授として高い評価を得る。学生たちは、通常、工学部ではありえない動物実験を行い、卒論のテーマにでき、受賞まですることで、就職活動に有利になる。

 しかし、実のところ全部ごまかしであり、無意味なラットの殺戮なのである。

 肝臓を取り出したラットは全部殺されるし、脾臓摘出されたラットも外科准教授が行ったものは縫合して生き残るが、工学部学生がおこなったラットは全部死んでしまった。

 また、ご存知のように、実験に使わずに余ったラットも通常全部殺される。(当実験では引き取られたが)

 大学医学部という密室でこのような殺戮が簡単に罪悪感もなく行われることに恐怖を感じる。

■そしてスキャンダルとともに……

 この移植外科のM元准教授は、その後、あるスキャンダルによって大学を辞めさせられた。その責任で教授も辞めさせられた。この経緯は、ニュースをさんざん騒がせたのでご存知の方も多いと思う。

 M元准教授の辞職と共に、この動物実験は全部中止になった。生き残ったラットは全部優しい里親にもらわれていき、残りの生涯を幸せに暮らすことができた。

無意味な実験で失われた命は戻りませんが、その実態がこのようにして表に出てくる機会は非常に貴重です。スキャンダルの内容は直接動物実験には関係ありませんが、いいかげんな体質のもとに動物たちも犠牲となっていたことを考えると、多くの大学で露呈する数々の不祥事の裏にも、似たような問題があるかもしれません。勇気を持って寄稿くださいました方に感謝いたします。

※本稿は、NPO法人地球生物会議ALIVE会報「ALIVE」101号(2012冬号)にも掲載していただきました。インターネット公開にあたり、若干修正を行いました。

※現在はALIVEに全く関わっておりませんし、活動も支持しておりません。
 
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