千葉県にある放射線医学総合研究所では、施設の一般公開時に、マウスをふれあいイベントに使っていました。平成19年、実際にその様子を目にして、あまりに不適切と感じましたので、後日放射線医学研究所にお伺いし、質問をさせていただきました。当日は、獣医師でもある20年来の知人にも同行してもらい、動物福祉の観点から問題を指摘させていただきました。また、同行くださいました川本幸立県議からは、バイオハザードの観点から厳しい意見が出ました。

その結果、放医研からは、以後マウスのふれあいイベントを行わない旨の回答をいただきましたので、ご報告いたします。

PDF放医研からの回答

また、この件に関しては、動物取扱業の登録の対象になるのではないかという疑問もあり、千葉市にもご相談をさせていただきました。放医研は、千葉市の動物愛護行政に出向き、説明を行っています。

当日の様子は以下の通りです。

 

2007/4/26

放射線医学総合研究所の一般公開時に行われていた
実験動物(マウス)との触れ合いイベントについて

 
先日、千葉市にある独立行政法人放射線医学総合研究所(放医研)の施設一般公開イベントで、実験用マウスを子どもたちに触らせるコーナーが設けられました。非常に問題を感じるイベントでしたので、以下、概略と問題点をまとめたものをご報告します。

【科学技術週間 施設一般公開概要】
日時 : 2007年4月22日 (日) 10:00~17:00
会場 : 放射線医学総合研究所 千葉県千葉市稲毛区穴川4丁目9番1号
主催 : 独立行政法人 放射線医学総合研究所
後援 : 千葉市   参加料 : 無料
※実験動物との触れ合いコーナーについては、下記のように広報されており、使われる動物が何であるかは事前には不明でした。
★イベント情報  URL:http://www.nirs.go.jp/news/event/2007/04_22.shtml
施設公開「放医研の実験動物 動物との触れ合いコーナーです」
★見学案内図 http://www.nirs.go.jp/news/event/2007/04_22/map.pdf
「放医研の実験動物:Z棟(講堂) ・動物との触れ合いコーナー」と記載あり。

【当日の様子】

*触れ合いコーナーの写真
 
放医研マウスふれあい1
Z棟2階の会場に入るとすぐの場所に、ビニール製の簡易なアイソレーターのようなものが2つ置かれていて、中に数匹のマウスと実験器具類が入れられていました。子どもは希望すればその場でビニール手袋に手を入れて、マウスと「触れ合う」ことができるようになっていました。担当者は3、4人いましたが、申し込みをしたり、時間制限があったりすることはありませんでした。

 
放医研マウスふれあい2
「ピンセットでマウスをつかまえようとしていた子どもがいたので注意した」と言ったところ、「私たちも普段ピンセットでしっぽをつかむんですよ」との返事。ピンセットはマウスをつかまえるために入れられていました。 担当者がマウスの扱い方を教えてから触らせるわけではないので、ピンセットについても、しっぽをつかむということはわからないのではないでしょうか? 体をはさもうとして刺さったりすれば危ないのでは?と感じました。

 
放医研マウスふれあい3
「ぼくのこと わたしのこと つよくにぎったりしないでね」と書かれていましたが、実際には表示だけで、口頭での注意などはなされていませんでした。

 
放医研マウスふれあい4
アイソレーター(?)の中は乱雑になっていて、プラスチックケージから外に出たマウスが中をうろうろしています。それを子どもが手で追い掛け回していました。

 
放医研マウスふれあい5
免疫力が低いと言われているヌードマウスも触れ合い用に入れられていました。一般のマウスよりストレスに弱いのではないのでしょうか?

 
*会場担当者との会話
・「マウスが疲れるのではないか」と尋ねたところ、触れ合いコーナーにいた担当の人も「終わるころにはぐったりしているかも」と言っていました。
・実験施設から出してしまった実験動物は、その時点で実験には使えなくなるので、当然安楽死させることになると思い確認したところ、やはり実験施設の責任者の判断で殺処分になるとのことでした。
・「安楽死になるのなら、引き取って飼うことはできないか」と申し出たところ、それは実験動物の管理上、できないとのことでした。「出すと法律違反になる」と言うので、「カルタヘナ法ですか? それならここに出すだけでも違法ではないですか?」と聞いたところ、「遺伝子組み換えマウスではない」との返事。(では、研究所外に出せないという法律は何なのか?) 特殊な系統だから、とのこと。
・「このイベントは来年もするのか?」と最後に聞いたところ、形式は検討するような回答はありました。

*触れ合いコーナー以外のマウスの展示

 
放医研マウスふれあい6
がんを植えつけられたヌードマウスの展示。外気に触れていて、すでに実験には使えないので、おそらく殺処分になると思われますが、展示するためだけにがんを植えつけられたのか?と思うと、非常に命が軽く扱われているような気持ちになりました。

 
放医研マウスふれあい7
去年はこの形態の展示のみだったそうですが、子どもがマウスを握りつぶして死なせる事故があったため、今年はアイソレーターを使った触れ合いコーナーにしたという話でした。(実際には今年の形態のほうがマウスにはストレスが大きそうに思ったのですが……)

 
放医研マウスふれあい8
授乳中のマウスの母子と、オス1匹。これも殺処分となるのだとしたら、何のために繁殖させたのでしょうか?

 
【問題点】
*動物福祉の観点から
・マウスは、体長7、8センチのとても小さい動物で、不特定多数の子どもたちに次々と触らせるには体力的に無理があります。

・マウスは、基本的には昼間に眠る夜行性の動物です。日中、このようなイベントにかつぎだされては眠ることができず、大変ストレスであるはずです。

・また、愛玩用と違って実験用マウスは人間に慣れていないのが普通で、触れ合い動物としてはストレスが大きく、不適切です。実際、逃げようとしてマウスが手から下へ落ちるところを何度も見ました。基本的には「触れ合い」というより、「つかむ」「追い掛け回してつかまえる」イベントでした。

・子どもたちに触らせる前に、横で見本を示して見せるような指導がなく、希望者はいきなりマウスが入れられている入れ物に手を突っ込み、勝手に触ることができる形態のイベントだったことがもっとも問題だったと思います。子どもが、しっぽをつかんで手の甲側にぴしっと打ち付けるような動作をしたりしていても、誰も注意する人がいませんでした。担当者はそばにいるのですが、きちんと横で見本を示したり、注意したりということがありませんでした。昨年、マウスを強く握って死なせてしまった子どもがいるというのに、なぜ今年もこのようなイベントを企画したのでしょうか。

・通常、動物触れ合いイベントにくる子どもたちは、触った動物がそのイベントのためだけに殺されるということは想定していないと思います。実際、殺処分について話している私たちのほうを、中学生くらいの女の子がいぶかしげに見ていました。教育上の観点からも、殺処分が前提のイベントはするべきではないと感じました。

・命ある動物を触れ合いイベントのために消費することは、動物愛護法にも盛り込まれた「実験動物の福祉(3R)」の考え方にそぐわないのではないでしょうか。(人類の受ける利益と比較して、犠牲は最低限にされるべき)

*動物愛護法上の登録は?(※千葉市へご確認したい事項です)
・動物愛護法では、動物取扱業者に登録の義務付けがあります。実験施設は、法律上その対象から外されていますが、不特定多数を対象にした触れ合いイベントの場合、登録の義務に抵触しないのでしょうか?畜産動物を用いたイベントでは登録が必要です。(会場には、業者の登録標識はありませんでした)
研究所の職員は、実験動物の専門家ではあるかもしれませんが、展示業のプロではないと痛切に感じたので、現行法上で登録の必要がないとされた場合でも、今後の法整備(条例含む)が必要ではないかと感じました。

*実験動物管理の観点から
・触れ合いコーナー・展示コーナーに用いられたマウスは、それだけなら逃げるおそれはないとは思いますが、この会場では多数の子どもが出入りしており、会場の入り口のドアも開けっ放しでした。ケージがひっくり返された場合などを想定すると、不適切な管理状態だったのではないかと思います。

*その他
・ヌードマウスの作り方について質問したところ、会場にいた担当者の方では答えられませんでした。科学に理解を得るためのイベントではなかったのでしょうか……。

以上のような点から、今後このようなイベントを安易に研究所で行ってほしくないと考えています。