(AVA-net会報 2004/5-6 106号掲載)
※現在、AVA-netは存在しません。吸収合併した団体についても活動を支持しておりません。

 

 
2004年3月7日(日)午後1時~午後6時
場所:東京国際交流館 国際交流会議場
主催:ナショナルバイオリソースプロジェクト・マカクザルバイオリソース委員会

104号でご報告した犬山でのシンポジウムと講演者の顔ぶれも似ており、内容的に重なる部分も多いので、今回は動物実験の法規制などをテーマにお話をされた鍵山直子氏のお話をまずご紹介し、質疑応答および感想などをレポートいたします。

※肩書き等は当時のものです

「動物実験に対する研究者の責任」
理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 鍵山 直子

 動物を使った実験がなくなればそれにこしたことはないのですが、現在動物実験は続けざるを得ません。代替法など次善の策が適正に行われるよう、内側から支援するのが私の使命です。また、動物実験の必要性を正しく市民に伝えるのも、研究者および私ども実験動物学者の大きな責任です。

 諸外国は法律で動物実験を規制しています。イギリスは、「動物科学的処理法」によって内務省が動物実験を所轄し、規制。アメリカでは、農務省の「動物福祉法」と、保健福祉省の「保健研究拡大法」の両方の規制を受け、省庁横断的な実験動物委員会が存在します。また、国立科学アカデミー傘下のILARが定める指針に基づき、民間の第三者評価機構であるAAALACが機関の認証を行います。

 動物実験の審査・承認に関しては、ヨーロッパ諸国は行政による直接審査により大臣が承認。アメリカ・カナダは委員会による審査で、機関長の責任で最終承認します。審査の公正を保つために、第三者評価機構によるピアレビューのシステムが確立しています。

諸外国に共通するのは、3Rの原則と、法規制と、動物実験の判断基準としてのコストベネフィット比較分析です。実験動物の苦痛度と、その実験によって人間が浴する恩恵の程度の比較が行われています。同時に、苦痛軽減の努力も研究者の責任であり、対策が講じられないのならば、実験計画は承認されえません。動物に平常心を保たせることや、実験装置の工夫なども重要です。

わが国の動物実験は、行政による管理ではなく、機関の自主管理で行われています。タイムリーな動物実験計画の審査などメリットもありますが、動物実験に対する法的拘束力が不十分なため、判断のばらつきを生じる可能性があるなど、デメリットもあります。

自主管理には、動物実験管理体制の確立および研究者の責任遂行が不可欠。機関の長の責任において、動物実験の指揮命令系統から離れた動物実験委員会を設置し、その助言による改善実行等が行われるべきです。また、動物福祉を担う専門獣医師が必要でしょう。研究者には、実験動物にその使命をまっとうさせるべき責任があり、私は、倫理規範だけで実験動物福祉を実現することは困難だと思います。3Rの原則に基づく動物実験の法規制と、実効性のある法規の運用があってこその自主管理です。

日本には、研究者を外部から指導し、動物実験を社会に説明する機構や、研究機関の自主管理のしくみを専門家の目で審査する第三者評価機構が設けられていませんが、それらの設立を私は期待しています。自主管理を続けながら、現場での実験動物福祉を一層向上させることができると考えるからです。

■質疑応答よりピックアップしました

Q.情報公開された岡崎国立共同研究機構※1の実験計画書を見てみると、サルの入手先・産地が空欄であるにもかかわらず、動物実験委員会を通過しているものがかなりある。どうしてその状態で実験委員会を通るのか? また、どこから入手したサルなのか? 入手先が公開されないのはなぜか? バイオリソース・プロジェクトから販売されるサルに関しても公開しないつもりなのか?

A.岡崎国立共同研究機構・伊佐
サルは全て購入しているし、入手先はわかっている。納入業者は公開できない。バイオリソースに関しては、業者に相談してみないとわからない。実験委員会には所属していないので何とも言えない。持ち帰る。

※1 このマカクザルのプロジェクトの中核機関である岡崎国立共同研究機構・生理学研究所は、2004年4月1日から大学共同利用機関法人 自然科学研究機構・生理学研究所に変更となっています。ここでは当時の旧名称で報告します。)

Q.結局内部で審査を行うのであれば、実質委員会は機能していないのでは?という疑いを市民は持つ。公開といった意味でも、第一歩として、例えば動物愛護管理法改正で届出制を実現させることや、第三者の目を入れていく方向へ持っていくべきではないかと思うが、どう思われるか?

A.理化学研究所・鍵山
あくまで個人的な意見だが、届出制がない国は国際的には珍しい。天変地異などのことを考えると、行政も把握しておくべき。立ち入り制は市民にもっと勉強してもらわなければ実現不可能。(法改正に関して、会場にいる行政の方へ話を振ってくれるが、どこからも回答なし)

※ Ava-netなどが主張している立ち入り制は、行政などそれなりの有資格者による立ち入り制のことです。


<サルを販売する実験動物供給会社からの質問

Q1.なぜニホンザルでなければいけないのか?

Q2.20年後、30年後、需要がなくなるかもしれない可能性がある。以前、ニホンザルの繁殖生産を当社でも検討したが、将来的予測から実行へ移せなかった経緯がある。需要がなくなったときのことは十分に検討されているのか?

Q3.民間業者が補助金を受けるというのはおかしいのではないか。買う方に補助が出る形が正しいのでは?

A1.岡崎共同研究機構・伊佐
カニクイザルは複雑な動作などを訓練しづらい。アカゲザルは、中国からの輸入が不安定なことと、検疫などの問題がある。ニホンザルは性格的にハンドリングがしやすいなど、メリットを感じる研究者が多く、アカゲザルと同じように論文も採用してもらえるので、問題はないと考えている。
(他の方々より)
・海外の野生ザルの状況を考えると、輸入する側が現地の状況を無視することは責任逃れ。
・アカゲザルからはBウィルス感染での人間の死亡例が報告されているが、ニホンザルにはない。

A2.基本的に需要は続くのではないかと考えているが、基本的に20年後、30年後という視点はなかった。貴重なご指摘をいただいたと思う。

A3.限られた予算の中で新規の施設は作れず、事業委託の形にしたわけだが、ご指摘いただいた点については議論したことがなかった。今後どのような形にしていくか、3年後をめどに考える。形としては事業委託である。

<社会的合意について>

Q.動物実験は必要だと主張することも大切だが、社会的に認められるかどうかも重要なことだ。医学研究が国際的な性格を持つものである点を考えれば、日本の霊長類の飼育・実験施設も国際的に認められるような施設になっていくべきである。例えば、事業委託先の2施設はなぜ国際的な認証機関のレビューを受けないのか? サルを使うそれぞれの研究施設も国際的に認められる施設になっていくべき。

A.岡崎共同研究機構・伊佐
サルを使いたいというところからこのプロジェクトを始めたが、個人的な感想では、始めてみると非常にそれだけでは終わらない問題が出てきた。社会に説明できるシステムを作っていきたい。

まだ他にも質問は出ており、全体的に前回の犬山のシンポより活発な質疑応答となった印象はありました。意外なことですが、実験動物供給会社の方からの質問が鋭いように感じました。

また、日本動物実験代替法学会関係者の立場として、大阪大学・黒澤努氏が「サルでなければだめだと言わず、代替法もどんどん検討していくべきだ。はたして十分に検討はなされているのか?」と熱弁を振われていたのも印象に残りました。

■民間業者については?

全体を通してひとつ疑問に感じたのは、講演者として和秀雄氏が呼ばれ、繁殖施設の写真も映され、すでにニホンザルの繁殖が始まっていることが報告されているにもかかわらず、このマカクザルのバイオリソース・プロジェクトで委託先とされている民間業者の名前を明言することが避けられている点です。画面に映し出された繁殖施設がどこにあるのか、このプロジェクトの委託先なのかどうか、なぜそこが選ばれたのか、サルは何頭集め、どの程度の規模で繁殖するのか、詳細が語られないまま、まるで単なる繁殖の1例であるかのように民間施設について報告される展開は、前回も同じでした。

霊長類研究所ともう一カ所委託事業を請け負う民間業者1社とは、(有)日本野生動物研究所の奄美大島の繁殖施設(和氏経営)であり、そのことは行政の資料などに記載されているのですが、なぜこの一連のシンポジウムや配布されるパンフレット類等ではそのことが公言されていないのか、大変疑問に感じました。さらに言えば、前述したように同業他社からの疑問の声もあり、それが税金である以上、どの程度の規模の予算がそこへ使われる予定なのか、公開する姿勢があってもいいのではないかと思います。

動物福祉的側面から言えば、飼育環境に関して、霊長研の放飼場との間に大きな格差があるように思えることも気になります。床はコンクリート、4m×4m程度等のケージに数頭ずつ飼う形式のようですが、サルにとって好ましい飼育環境とは思えませんでした。また私企業であるため、情報公開や経営の安定の面でも不安を感じさせられました。

(実験サルの写真キャプション)
霊長研の放飼場は自然の中。でも実験用に売られればこの狭いケージの中……

■成果は華々しく公開。では動物実験は公開されているのか?

今回のシンポジウムの質疑応答で、ある動物保護関係者の方が、「私たちは動物実験に反対ではない。動物実験に反対する人たちが、動物実験はこんなに悲惨だという写真を見せ、悪宣伝をしている」というお話をされました。

けれども、この一連のシンポジウムも含め、研究者が一般向けに公開する場所で、動物実験についてそれがどういうものなのか、写真や映像で全貌を公開することはまずありません。今回もサルの写真は、飼育状況を示すものや、脳や腕などパーツを写すものなどに限られ、「私たちは動物実験でサルをこのように扱います」という具体的な説明は、言葉上を含めてもほとんどありませんでした。(研究者はサルを自分の子供のように扱っているという、推測をもとにした話も出ましたが、子供に対し安楽殺や解剖ことは普通できないものであり、あくまでサルを利用するための美化としか受け止められませんでした。) フルカラーのパンフレット等も配布されましたが、実験中のサルの写真はもちろんなく、にこやかに座ってメガネをかけさせられているサルのイラストが掲載されていました。

実は、司会から講演者に対し、「では動物実験はどういうものなのか」といった質問もあったのですが、それさえも具体的な説明を避けるような回答となっていたのが残念でした。私たち市民が知りたいのは、研究の目的や意義だけではなく、それが具体的にどういうプロセスを経て行われるものなのかということではないでしょうか。

■その他

前回と比較して、夢物語的な脳操作の将来図を描くことはなく、脳研究の危険性を感じさせないようにするなど、「反対派対策」を意識した内容となっているように感じました。終了後には主催者側の記者会見があるとのことで、研究者側も市民理解を得ようと、いろいろと手を打っている様子がわかります。

霊長研の放飼場にも既にサルが入り、また民間施設でも既に繁殖が始まっているとの報告があり、プロジェクトの進行に危機感を感じます。円山動物園からの払下げ問題も3月下旬、「夏前には譲渡したい」という園長のコメントなどが報道されており、市民の監視がなお一層必要なプロジェクトだと感じます。生理学研究所に対しては、情報公開請求を行う予定です。また、次回も継続してシンポジウム開催の予定があるとのことですので、ぜひ皆さんにも参加していただいて、意見を述べてほしいと思います。

ナショナル・バイオリソース・プロジェクト(NBRP)概略

●文部科学省予算
平成16年度予算案 37億円
平成15年度予算額 40億円
平成14年度予算額 44億円(平成14年度補正予算額 8億円)

●目的・他
実験動植物や、ES細胞などの幹細胞、各種生物の遺伝子材料など、各種バイオリソースのうち、国が「戦略的に整備することが重要」としたものに関し、体系的な収集・保存・提供等を行う体制を整備していく、文部科学省の委託事業です。直接研究を行うものではなく、研究のための資源の整備に関する事業であり、それぞれに中核機関を定め、拠点整備を行うプロジェクトです。平成14年度事業着手で、対象は、霊長類(ニホンザルなどマカクザル、チンパンジー)、実験動物として、マウス、ラット、メダカ、アフリカツメガエル、線虫、ショウジョウバエ、カイコ、ゼブラフィッシュ。その他、シロイナズナなど植物や、微生物、細胞・DNAも選定されています。

(リンク・連絡先は古くなっているので省略)

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