[文部省]大学等における動物実験について(通知)

長い間、この通知1本で、日本の動物実験は適正に行われているという宣伝がなされてきました。2006年、動物実験基本指針が作られた際に廃止されました。記録のため残しています。

 
文学情第141号
昭和62年5月25日

各国公私立大学長
各国立大学共同利用機関長殿
各国公私立高等専門学校長
文部省学術国際局長
植木浩
大学等における動物実験について(通知)
近年、大学等における動物実験は、バイオサイエンス研究の急速な発展とともに、医学、
生物学、農学等の生物系研究領域において、その重要性がますます高まっております。他
方、動物実験については、科学的にはもとより、動物福祉の立場からも適切な配慮が必要
であるとの提言や指摘が関係学会等でもなされております。また、国際的にも、動物福祉
にも配慮した動物実験指針の作成が要請されるようになっております。
我が国では、すでに、「動物の保護及び管理に関する法律」( 昭和4 8 年法律第1 0 5
号)及び「実験動物の飼養及び保管に関する基準」(昭和55年総理府告示第6号)が制
定されていますが、特に、動物実験を行う研究者も多い大学等においては、今後、それぞ
れの状況に応じ、動物実験の立場から、適切な実験指針を整備していくことが重要な課題
となっております。
このような状況にかんがみ、学術審議会においては、かねてから、大学等における動物
実験の在り方について検討が行われてきましたが、このたび、その検討結果が「大学等に
おける動物実験の実施に関する基本的な考え方について(報告)」として別添のとおり取
りまとめられました。
ついては、貴学(校・機関)において動物実験が行われる場合には、上記の法律及び基
準によるほか、上記の報告を踏まえつつ、下記の諸点に留意の上、動物実験の指針を整備
するとともに、関係職員等に対し指針の周知徹底を図るなどして、動物実験が有効適切に
行われるよう、特段の御配慮をお願いします。
1.動物実験の指針は、当該大学等の研究上の必要等を勘案しつつ、次のような原則的な
考え方に基づき整備すること。
(1) 実験計画の立案
実験計画の立案に当たっては、実験動物の専門家の意見を求める等により、有効適
切な実験が行えるようにすることが望ましいこと。なお、実験においては、実験動物
を使わない方法によるように努めることも必要であること。
(2) 供試動物の選択
供試動物の選択に当たっては、実験目的に適した動物種の選定、実験成績の精度や
再現性を左右する供試動物の数、遺伝学的及び微生物学的品質、飼養条件を考慮する
必要があること。また、必要に応じて、検疫を行うこと。
(3) 実験動物の飼育管理
科学的にかつ動物福祉の観点からみて適正な動物実験を実施するためには、施設、
設備等の適切な維持・管理に配慮し、適切な給餌、給水等の飼育管理を行う必要があ
ること。
(4) 実験操作
実験操作により、動物に無用な苦痛を与えないよう配慮すべきこと。このことは、
科学的に適正な動物実験のためにも、また、動物福祉のためにも必要であること。
(5) 安全管理に特に注意を払う必要のある実験
物理的、化学的な材料あるいは病原体を取り扱う動物実験においては、人の安全を
確保することはもとより、飼育環境の汚染により動物が障害を受けたり、実験結果の
データの信頼性が損なわれたりすることのないよう、十分に配慮する必要があること。
なお、実験施設の周囲の汚染防止については、施設、設備の状況を路まえつつ、特段
の注意を払う必要があること。
(6) 動物実験委員会の設置
動物実験委員会を設けるなどして、動物実験指針の適正な運用を図ること。委員会
は、当該大学等の実験動物の専門家、実験者、その他必要と認められる者によって構
成することが望ましいこと。
また、動物実験委員会は、当該大学等の動物実験施設の運営委員会など既存の組織
の改組、拡充によって整備することも可能であること。
2.動物実験の指針及び動物実験委員会の整備については、各大学等の実情に応じて、大
学等の長又は関係学部等の長が行うものとすること。
別添
大学等における動物実験の実施に関する基本的な考え方について(報告)
昭和62年1月26日
学術審議会学術情報資料分科会
学術資料部会
近年、バイオサイエンス研究等の進展とともに、動物実験の必要性はますます高くなっ
ているが、一方では、動物実験の在り方について、科学的な研究推進の立場から、あるい
は動物福祉の立場から、学界のみならず一
般社会からも多様な意見や要望が出されつつある。国際的にも、動物実験の実施に関し、
一定の指針を設ける方向に向かっている。このような状況にかんがみ、学術審議会学術情
報資料分科会学術資料部会においては、特に、今後におけるわが国の大学等での動物実験
実施の基本的な考え方について検討を行ってきたが、このたび、その検討結果を別紙のと
おり取りまとめたので報告する。
( 別紙)
1.背景
近年におけるバイオサイエンスの急速な発展とともに、医学、生物学、農学等を含む生
物系の研究領域においては、動物実験の重要性がますます高まっている。すなわち、動物
実験は、バイオサイエンス等生物系の研究活動を支える重要な手だてとして、人類の福祉
・健康の増進や科学技術の進歩に計りしれない恩恵をもたらしている。こうした動物実験
は、科学研究の一般原則に従い、再現性が得られるよう実験動物及び動物実験の諸要件に
留意しつつ、動物の生命を尊重し、動物にできる限り苦痛を与えないよう平静な条件で、
飼育し、処置を行うことによって、所期の成果を期待し得るものである。このような動物
への配慮は、科学的な研究の必要性と矛盾するものではなく、動物実験を行う上で極めて
肝要なことであると考えられる。
わが国では、動物の適正な保護及び管理を促すため、昭和48年に「動物の保護及び管
理に関する法律」が施行され、これを受けて昭和55年の「実験動物の飼養及び保管等に
関する基準」等諸基準が定められている。また、日本学術会議からは、昭和55年に「動
物実験ガイドラインの策定について」の勧告が出され、同時に各領域に共通して受け入れ
られるべき「動物実験ガイドライン草案」が公表された。
他方、欧米諸国でも、近年、いわゆる動物福祉や動物保護の立場から、種々の法律や指
針が定められている。米国では、動物実験の在り方について、1970年頃から、関係の
法律や指針等が定められ、例えば、国立衛生研究所(NIH)の場合、動物実験が同研究所
の指針に則したものであることを明示することが、研究費交付の際の重要な条件になって
いる。国際的には、国際実験動物委員会(ICLA)が1974年に、動物実験の規制に関す
る指針(Guidelines for the Regulation of Animal Experimentation)を定め、また、
国際医学団体協議会(CIOMS)でも、動物実験に開するバイオメディカル研究の原則を打
ち出している。
2.大学等における動物実験の指針の必要性
昭和61年2月の学術審議会建議「大学等におけるバイオサイエンス研究の推進につい
て」において指摘されているように、今後、我が国がこの分野において、世界に伍して優
れた業績を挙げていくためには、大学等におけるバイオサイエンスの研究推進の体制等の
整備充実を急ぐ必要がある。この場合、上記1で述べたように、バイオサイエンス研究等
の基盤としての動物実験の重要性がますます高まっており、それに伴い、多様な実験動物
を開発、利用していく必要性が生じている。
他方、近年、国際的な学会等での研究発表や学術雑誌への論文掲載に際して、動物実験
の方法や成果については、当該実験が依拠した当該国での動物実験の基準等を明らかにす
ることが求められ、動物福祉の観点も踏まえた適切な基準等が明示されない場合、論文掲
載等が拒絶される事態も生じつつある。このような傾向は、動物福祉の立場からも適切な
動物実験を求める動きが広がる中で、ますます強まりつつある。
わが国においても、動物福祉の問題に対する関係団体や一般世論の関心が高まっている。
わが国では、上記の如く、動物保護の立場からは法律や基準がだされているが、動物実験
の立場から、動物福祉にも配慮して作成した共通の基準がなく、大学等の動物実験の現場
では、この問題への対応の仕方にとまどっているところが多々見受けられる。
このような状況の中で、特に大学等においては、動物実験を行う研究者も多く、この問
題の重要性にかんがみ、今後、当該大学等での動物実験に係る研究活動に対し、科学的に
はもとより、動物福祉の観点からも、国内外から正当な評価が得られるよう、動物実験に
関する一定の指針を定めていく必要がある。その際の指針には、以下のような原則的な考
え方を盛り込むべきものと考えられる。
3.大学等における動物実験の指針作成にあたっての原則的な考え方
(1) 実験計画の立案
実験計画の立案に当たっては、実験動物の専門家の意見を求める等により、有効適
切な実験が行えるようにすることが望ましい。なお、実験においては、実験動物を使
わない方法によるように努めることも必要である。
(2) 供試動物の選択
供試動物の選択に当たっては、実験目的に適した動物種の選定、実験成績の精度や
再現性を左右する供試動物の数、遺伝学的及び微生物学的品質、飼養条件等を考慮す
る必要がある。また、必要に応じて、検疫を行う必要がある。
(3) 実験動物の飼育管理
科学的にかつ動物福祉の観点からみて適正な動物実験を実施するためには、施設、
設備等の適切な維持・管理に配慮し、適切な給餌、給水等の飼育管理を行う必要があ
る。
(4) 実験操作
実験操作により、動物に無用な苦痛を与えないよう配慮すべきである。このことは、
科学的に適正な動物実験のためにも、また、動物福祉のためにも必要なことである。
(5) 安全管理に特に注意を払う必要のある実験
物理的、化学的な材料あるいは病原体等を取り扱う動物実験においては、人の安全
を確保することはもとより、飼育環境の汚染により動物が障害を受けたり、実験結果
のデータの信頼性が損われたりすることのないよう、十分に配慮する必要がある。な
お、実験施設の周囲の汚染防止については、施設、設備の状況を踏まえつつ、特段の
注意を払う必要がある。
(6) 動物実験委員会の設置
動物実験を実施する大学等においては、動物実験に関する委員会を設けるなどして、
動物実験に関する当該大学等の指針が適正に運用されるように配慮する必要がある。
なお、この委員会は、当該大学等の実験動物の専門家、実験者、その他当該大学等
が必要と認める者によって構成されることが望ましい。

 
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