平成17年度日本獣医師会三学会年次大会・第141回日本獣医学会学術集会(2006年3月)
~日本の動物実験は変わるのか?~

 

(AVA-net会報 2006/5-6 118号掲載)
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2006年3月18日~21日 つくば国際会議場

 
3月18日から21日の4日間、平成17年度日本獣医師会三学会年次大会と第141回日本獣医学会学術集会が、つくばで合同開催されました。全国から獣医師が集まる学会です。内容は多岐にわたりますが、一般参加をしてきましたので、動物実験をめぐる話題についてご報告します。

日本が選んだ自主管理という道

3月18日、日本獣医公衆衛生学会の教育講演「動物の愛護及び管理に関する法律の改正について」では、生理学研究所の鍵山直子氏が「動物を科学上の利用に供する場合の配慮」と題して講演を行いました。動物実験福祉の3Rを担保するために、日本は各研究機関による自主管理の道を選んだという話が中心ですが、鍵山氏がいつになく警告調だったのは、 「5年後の動愛法改正時にガイドラインが機能していなければ、次は法で規制されることになる、いまその背水の陣にいる」という点でした。それほどまでに法規制を避けたいのかと驚きも感じますが、関係者に変化を求めていたところは印象的でした。

獣医師の間でも意見は違う

しかし質疑応答では、「査察くらいは必要では? いまのままでは5年たっても変わらない」とはっきり指摘する関係者もいました。他の実験獣医師からも、法規制が望ましいという反対意見が出され、その話の中で驚いたのは、実験者による環境省基準の解釈についてです。

すなわち、「環境省が所管するのは実験動物の飼養保管の部分のみ。よって基準は実験処置中の動物の苦痛の軽減を対象としてない」というのです。どうひっくり返してみても基準案はそのように読めませんが、「偉い先生方」がすでにそのように言っているとのこと。そのような状況では社会の理解は得られないという主張はまったくその通りで、せっかく基準の名称も変わり、「苦痛の軽減」を宣言しているにもかかわらず、このような言説が通ってしまうのは異様に感じます。

当日は、「改正の背景とその概要」と題し、環境省動物愛護管理室・東海林克彦室長も講演していたにもかかわらず、この見解についての返答はありませんでしたが、同省が「動物実験と実験動物は切り離す」と言い続けてきたことの弊害がすでに出てきていると感じました。

第三者評価は実現するのか?

昨年の動愛法改正時、動物実験を第三者が評価するしくみをつくるという話がしきりに研究者サイドから出され、「だから法規制は必要ない」という主張が通されてきました。しかし案の定、この教育講演によれば、そういったしくみづくりは現在まったく動いていないとのこと。

翌日の別のシンポジウムでは、一人だけ評価実現へ向け奮闘している人がいるという話もあったのですが、いずれにしろ、それなりのものをつくるには不十分な状況であり、この話は法規制阻止のための大風呂敷に終わる可能性もあるのではないかと感じます。

日本学術会議の詳細指針に関しては、現在非公開の会合で議論中とのことで、目にすることができるのはまだ少し先になりそうです。また、この学会ではたびたび「農林水産省にも指針をつくる動きがある」という発言が聞かれたのですが、現時点では確認できていません。

世代交代へ向けて

後ろ向きなことばかりになってしまいましたが、20日には日本獣医学会企画として「獣医学教育における動物福祉教育のあり方」というワークショップがあり、また21日の日本獣医解剖学会シンポジウムでは、会場内で獣医学生のグループによる代替法教材の展示が行なわれるなど、明るい話題もありました。

安全性試験の代替法に関しては、大阪大学・黒澤努氏の「動物実験代替法の確立」ほか、代替法的な話題が提供された創薬関係のシンポジウムもありました。医薬品開発における獣医学の役割がテーマですので、動物実験が行なわれることは大前提ですが、それでも使用頭数を減らす努力などは評価されるべきだと思います。質疑応答では、「チンパンジーを使う実験で毒性がわかるとは思えない」といった発言もあり、「欧米の霊長類の実験では倫理的理由から、発熱などの症状が出た場合治療を行うので、薬物の本当のところの影響がわからない」という説明がありました。

また、「安楽死を考える」というシンポジウムでは、実験動物の安楽死指針についての各国の状況比較や、日本獣医学会誌に連載されていた「米国獣医学会安楽死研究会報告」についての発表がありました。アメリカでは、炭酸ガスによる殺処分は、げっ歯類には問題ないとされていますが、犬や猫では不適切とされているとのことです。ファイザー製薬では、日本の研究所でも動物実験は本国アメリカの指針で運用されているとのことで、日本ではまだかなり行なわれていると思われるげっ歯類のエーテル殺も、不適切とされたそうです。

動物実験については、いますぐ劇的な変化を求めることは非常に難しいものがありますが、着実に時代は変わってきています。環境省の動物愛護管理室長の話に、「30年前は自然保護ですら、『では木一本切らないのか』という議論になった。いまの動物愛護の状況にはそれと似たところがある」とありました。将来、動物たちへの理解がより進んだ社会が必ず来ると思います。いま変わらないことに確かにいらだちはありますが、小さな変化も大切にしながら進む必要があるとも感じます。