第155回国会 参議院厚生労働委員会 11号 平成14年12月03日

(前略)

○谷博之君 (中略)

 それから、もう時間が大分進んできましたので、ちょっと途中一、二問省きまして、医薬品のいわゆる製造過程における、あるいは研究開発過程における実験動物の問題について次にお伺いしたいと思っております。

 ずっとこの委員会でも説明がありましたけれども、日本はアメリカと比べて医薬品の治験の問題等については非常に時間が掛かっていると。そういう部分の体制をしっかりと整備するということで今回の法改正が出されてきているというこういう説明もあったわけでありますけれども、そういう医薬品の開発過程の中で、いわゆる人間に対する臨床試験の前に非臨床試験として動物実験が繰り返し行われていることはもう御案内のとおりです。

 これは、日本動物実験学会あるいはその協会では五年に一遍、実験動物がどのぐらい使われているかということを調査しておりまして、二〇〇〇年の調査では回収率が八〇%で全国で約九百万匹、犬とか猫がこの実験動物として使われていると、こういうふうな数字が出てきていますね。

 これ大変な数字だと私は考えておりますが、これはどこからそれを供給するかということでありますけれども、これは一つは、都道府県でそれぞれ捨てられた犬や猫を言うならば集めて、ドッグセンターとかそういうものがありますけれども、そういうものから供給されるというケースも非常にあるようです。これは単にその供給先は製薬メーカーであると同時に、大学の医療機関とかそういうふうな教育機関にもこれが供給されていると、こんなように我々は聞いております。

 日本ではこういうふうな動物に対する法律がどうなっているかというふうなことをいろいろ考えて調べてみましたら、環境省が所管をしておりますけれども、動物愛護法という法律、動物の愛護及び管理に関する法律、これは一九九九年に改正されておりますけれども、この法律の中では基本的には動物は命ある存在だということを一つきちっと規定しております。

 こういうふうな改正についても、もう御案内かと思いますけれども、国会にも請願等が出てまいりまして、多くの超党派の国会議員の皆さん方もこの請願の賛同人にもなっているわけです。その請願の中に五項目あったわけですが、そのうちの一項だけ、この実験動物についてのこの部分の改正がなされないでいるのが今の日本の実態だというふうに我々は聞いております。

 それで一つ、まず環境省にお伺いをいたしたいわけでありますけれども、現在そういう動きを受けて動物愛護法に基づいて行われている実験動物の飼養及び保管に関する基準、こういう基準の改正作業に今入ってきているというふうに言われておりますけれども、これはどういうふうな状況になっているか、お知らせいただきたいと思います。

○政府参考人(小野寺浩君) 動物愛護管理法第五条及び第二十四条では、これまでに犬及び猫、展示動物、実験動物、産業動物を対象とする飼養及び保管等に関する基準を定めてきたところであります。

 このうち制定が昭和五十年と最も古い犬及び猫の基準については、今回の法改正で飼養動物の所有者責任の強化が図られたこともあり、本年五月に家庭動物等の飼養及び保管に関する基準として決定、告示を行ったところであります。

 御指摘の実験動物の飼養及び保管等に関する基準、その他の基準につきましても、順次検討を進め、見直していきたいと考えておるところでございます。

○谷博之君 その際、例えばイギリスなんかでは、来年、包括的動物保護法の改正というものをイギリスは何か取り組んでいるようでありまして、動物福祉と動物保護団体の意見を求めて、しっかりその中に組み入れていくというようなことをやっているようであります。

 日本の場合は、そういう意味では、今おっしゃったようなその作業の中に、具体的にどのようにこういう市民とかNGOの皆さん方の参加、意見をそこに反映していくのかということですが、この点はどのようになっておりましょうか。

○政府参考人(小野寺浩君) 動物愛護管理法に基づく基準等の見直しの際でありますが、これまでも法に基づく関係審議会への意見聴取、またパブリックコメントを実施するなど、NGOの方々も含め広く国民の御意見をお聴きした上、見直しを進めてきているところでございます。

 今後行われる基準の見直しの実施に際しましても、同様に対処することと考えております。

○谷博之君 これは環境省に限らず、厚生労働省も同じような問題があるんだろうと思うんですが、是非私、環境省には強くお願いをしたいと思っておりますのは、日本の場合は、特に動植物の保護とかそういう観点で言いますと、全体としての法の整備というのが一部欠落している部分があると思います。これは、いわゆる野生生物保護法という法律とか、それとか、いわゆる外来種、輸入種の規制法とか、そういういろんな法律がまだ日本はできていないという、しかもそういう中で既存の動物、植物がいろんな目的で飼われているわけですが、その一つの大きな目的としてこういう動物実験のための犬や猫が要るということでありまして、これは本来、生物、動物を使わなければ薬の本当の意味の試験ができないんだろうかというふうな、こういうところまで実は話はさかのぼっていってしまうと思いますけれども。

 したがって、限りなくこういう動物は数を少なくしていくというのが私は基本ではないかというふうに考えております。そういう点も是非含めて、環境省の皆さんには今の取組の中で前向きにひとつ取り組んでいただきたいと思っております。

 答弁は、これで終わります、結構です。

 それで、そういうことを含めて厚生労働省にお伺いいたしますが、こういうふうな試験に用いられる動物に対する倫理的な配慮というものはこれは重要だというふうに考えておりまして、生物学的安全性評価の基本的考え方ということで厚生労働省が具体的なそういう検討を、そういう案を作ることで進めておられるというふうに聞いておりますけれども、これはパブコメにもそういうふうなことが出ておりますけれども、その進捗状況はどのようになっておられるでしょうか。

○政府参考人(小島比登志君) 今、先生御指摘の生物学的安全性評価ガイドラインというものがございまして、これは人体に移植、挿入、接触等により使用される医療用具についての人体に対する生物学的な有害作用の評価を行うための動物実験というふうなことになるわけでございますが、これのガイドラインを今年九月に改正案を公表いたしまして、現在パブリックコメントに寄せられた意見を整理しているところでございます。

 本改正におきまして、ISO基準に定められた動物福祉に関する事項を遵守するようガイドラインに盛り込む予定としております。具体的には、項目を立てまして、八、動物福祉、試験に動物を用いる際の動物の取扱いについては、動物の愛護及び管理に関する法律及びISO10993に、動物福祉に関する要求事項等に従い動物の福祉に努めることといった条文を挿入していきたいというふうに考えております。

○谷博之君 そこで、ちょっとまたEUの例を出して恐縮なんですけれども、EUで今年の八月、いわゆるこういうことがあったわけなんですが、それは、日本の場合でもいろんな製薬メーカーが新しい薬を研究開発するということで、いろんな実験等に取り組んでおられます。ところが、すべてその取り組んだ実験の成果が言うなら実って新しい薬が生まれてくるということではないと思うんですね。やっぱりいろんな失敗があったりして、その実験したデータというのはそのまま使われなくなってしまうというふうな、こういうことが非常にあるんだろうと思うんです。

 これはAというメーカー、Bというメーカー、Cというメーカー、それぞれがみんなそれぞれ研究段階で研究されておられる。当然それは各メーカーごとにそういうふうな資料が蓄積されているわけですね。同じ実験動物をする場合でも、そういう動物がそれぞれのメーカーで同じような試験をして使われているということになるわけですから、この数たるや非常に増えちゃいます。したがって、今、EUと話しましたけれども、EUではお互いが研究開発したそういうデータ、資料については共有をして、そしてそれをオープンにしていこうという、こういう試みを実は始めたということなんですが、私はやっぱり一年間に一千万頭からのそういう動物を使うということ、この数を考えたら、やっぱりそれは動物、命ある存在、これを大事にするということになれば、この数を減らすための努力、そのためのEU方式というものも私は非常に重く意味があるというふうに考えております。

 したがって、こういうふうなことについてのいわゆる実験結果のデータベース化、そしてそれを公開するというそういう方向、これを是非これからひとつ検討してもらいたいと思うんですが、この点が一つ。

 それからもう一つは、日本の新薬開発の過程というのは、動物実験を含めて透明性が非常に薄いといいますか、ちょっとブラックボックス的なところがあります。そこで、国と製薬会社だけではなくて、第三者機関が間に入ったいわゆる実験動物の入手先から許可に至るまでのチェック体制を作ると、こういうふうなことも必要なのではないかというふうに考えておりますが、この二点、お答えいただきたいと思います。

○政府参考人(篠崎英夫君) 前段の方について私の方からお答えをさせていただきますが、先生御指摘のように、製品化に失敗した化学物質、そういうもののデータベース化をすれば不必要な、先ほど御指摘がありました一千万頭にもわたるというそういう不必要な動物実験を避ける、そういう効果が考えられるわけでございますが、また一方、そういうものを発表することによって企業の知的財産権というそういう観点からの問題もあろうかと思います。今後検討していきたいと考えております。

○政府参考人(小島比登志君) 医薬品の承認審査に用いられるデータ作成のための動物実験ということでございますが、この動物の受入れあるいは管理、処分等々につきましては、非臨床試験における信頼性の確保というところから、私どもといたしましてはいわゆるGLPのチェックリストというのを作りまして、飼育施設、動物用品の衛生的な管理の方法がどうなっているか、動物の発注、受領がどうなっているか、あるいは試験前、試験中に生じた疾病及び死亡動物の取扱いというものを製造所調査のときにチェックをするようにというふうなことでやっているわけでございます。

 それでは足りず、第三者の更に監視によるチェックを行うべきではないかというふうな御指摘ではないかと思います。どういうふうな方策があるのか、私どももちょっと考えが付きませんが、いろいろ担当部局、関係省とも相談して、いろいろどんな方途があるのかというのを考えていってみたいと思います。

○谷博之君 実験動物の話について若干幾つかお伺いしましたけれども、私も実はこの問題は非常に関心を持っておりまして、何度も自分の過去の話を出して申し訳ないんですが、県会議員時代には何度かこの質問もさせていただきました。現実にそういう飼われている犬や猫がそれぞれの機関に出されている状況も確認をさせていただいたこともあります。

 しかも、実験動物になる犬とか猫というのは非常にある意味では私は虐待に近いような、そういう使われ方をしているケースもありまして、動物愛護団体からはこれは極めてやっぱり問題があるというふうな声も聞いているわけですけれども、それは薬を造るためにはそういうものが必要だと言えば人間が生きるための手段としてそういう動物を使うということになるわけですから、これはいろんな議論の分かれるところだと思うんですが、ただ、基本的に言いますと、そういうふうな虐待を受けるというか、そういう形で使われている犬や猫の数を限りなく少なくするということが、私はやっぱり考えていく必要があるというふうに考えておりまして、そういう視点からこの質問をさせていただきましたが、いろいろ答弁をいただきましたけれども、是非ひとつ現実の大きな問題ということで受け止めていただいて、これからの前向きな取組を是非御期待したいと思っております。

戻る