※医学研究目的のニホンザル捕獲は鳥獣保護法違反であることが国会質疑でも確認されました!

第154回国会 参議院環境委員会 7号 平成14年04月11日

○谷博之君 (中略)
 その問題と更に関連することでありますけれども、ニホンザルの問題がやはりここで一つまた問題になっております。

 御存じのとおり、ニホンザルというのはいろんな被害を及ぼしているということも報告されておりますけれども、一方では、日本で大変今、野山に野生で生息している動物の一つです。このニホンザルを実はずっと今日まで、特に医学の面で、脳神経外科の脳神経医学研究にニホンザルを利用するということがずっと続いております。

 これは、この条文を拝見しますと、第九条と第二十四条に、ここに学術研究の目的というところでうたわれておりまして、この条文の項目と、今申し上げましたニホンザルを脳神経医学研究に利用するということが正に該当するのかどうなのか、その辺についてお考えをお聞かせいただきたいと思います。

○政府参考人(小林光君) 第九条では、学術研究目的とか、そのほか被害を防止する目的などで許可を得て鳥獣を捕獲することができる規定がございます。

 この九条の規定で、野生鳥獣を捕獲しなければならない学術研究目的というのは、それを捕獲しなければその目的が達成できない場合に限られるということで、脳神経医学研究のように野生鳥獣でも繁殖鳥獣でも特に実験に支障がないような研究につきましては、今回ここで捕獲許可を与える学術研究には該当しないというふうに思っています。

 そもそも、こういう医学的な研究の場合は割と系統のはっきりした個体を研究対象にするというようなことがあって、割と繁殖をきちっと系統的に追えるようなものを中心にやっていくようなことでございまして、これにつきましては、第九次の鳥獣保護事業計画基準を環境大臣が定めまして都道府県知事に通達してございますけれども、その中にもそういう趣旨のことが書かれてございます。

 また一方、販売許可に関係する二十四条のことでございますけれども、こちらの方は、野生鳥獣と繁殖鳥獣、両方に対して販売許可というような対応でございますので、脳神経医学研究のための利用であっても学術研究として行うものであれば許可され得るものと考えております。

○谷博之君 ちょっと整理をさせていただきたいと思うんですが、第九条では、いわゆる学術研究のための捕獲というのは、つまり私たちは、ニホンザルが群を成して実際生活をしている、そういうふうな場の、そういうふうな生態研究とか、そういうものについての学術研究というのは、これは法律の目的に合っていると思うんですが、一方では、医学研究の方は鳥獣保護の目的のやはり外にあるのではないかというふうに基本的に我々は考えております。

 しかし、そういう中で、いろいろ有害駆除ということで計画を立ててニホンザルを駆除するというその場合に、駆除された猿というのは、基本的にはその猿をそこで苦痛のない状態で殺処分をしなさいというような、これが原則だと思うんですね。

 ところが、そういうふうな捕獲した猿を飼養許可というのを取って飼養登録をして、その猿を、例えば環境教育とかいろんなそういう分野で猿を活用するということについては、これは認められているというふうに考えておりまして、その場合に、飼養許可を取ったその猿がそこにまた繁殖したということになってくると、その猿の繁殖については、それは全く規定そのものは何にもないというようなのが今の状態だと思うんですね。

 そういういろんなことを考えますと、今申し上げましたように、特にこの四月から第九次の鳥獣保護事業計画というものがスタートいたしまして、そして、今申しましたように有害駆除の捕獲の申請のときに新たにその処理方法をそこに明記することになっています。その明記した内容に従ってそれが処理されたのかどうなのか、その明記されたのと違った形で処理をされているとすれば、これは問題があるわけですから、これはこういうところまでかなり形をきちっとしてきているわけですね。

 だからそういう意味で、今申し上げましたようにニホンザルの有害駆除の捕獲申請時に処理方法が脳神経医学研究として出した場合には、この捕獲は許可されるんでしょうか。

○政府参考人(小林光君) もう少し詳しく申し上げますと、現在、学術研究を目的とする場合の捕獲許可でございますけれども、その内容が鳥獣の生態、習性、行動、それから食性、生理等に関する研究であるということが条件でございますので、先生御指摘のとおりでございます。

 そういう目的外の目的で、学術研究ということで、脳神経医学研究で使いたいからということで捕獲申請された場合も許可はされないということでございます。

○谷博之君 分かりました。

 それで、更にもう一点、ちょっと確認をしておきますけれども、今申し上げました有害駆除で捕獲されたニホンザルの個体に対して、捕獲申請時に記入された処理方法と異なる目的で飼養登録を市町村に出すことは、これは許される行為なんでしょうか。

○政府参考人(小林光君) 目的を偽って捕獲をするということについては、それは鳥獣保護法違反になって許されない行為だと思います。

 むしろ、都道府県、審査する立場としては、その目的が本当に正しいのか、有害駆除だということに、実際に有害の実態があるのかどうか、そういうのをきちっとして許可を与えるべきだと思っております。

 その上で捕獲されたものを有効利用するということはあり得ることだとは思いますけれども、そもそものところをきちっとするということで、そういう間違いをしないようにしていく必要があろうかと思っています。

○谷博之君 もう一度ちょっと確認をさせていただきたいと思いますが、先ほど私がお聞きしたことに関連をするんですが、ニホンザルの有害駆除の捕獲申請のときに、処理方法が脳神経医学研究とある場合に、この捕獲は許可されますか、どうなりますか。

○政府参考人(小林光君) 許可されません。

○谷博之君 それでは、この問題にまた関連することなんですが、文部科学省の方にお伺いしたいと思います。

 今、若干触れてまいりましたけれども、このニホンザルを、特に大学の医学部の医療研究に、特に脳神経医学の方に活用するということで、かなり大学の医学部ではニホンザルが使われているというふうに聞いております。特に、私はその実態についてまずお伺いをいたしたいと思います。

○政府参考人(坂田東一君) 適法な有害駆除で捕獲をされましたニホンザルにつきまして、大学の動物実験施設等で譲り受けた実績、これがあるということは私どもも承知をしてございますけれども、その動物実験で利用されました具体的な個体の数、これにつきましては、ニホンザルに限りませんが、他の動物も含めまして、我が省といたしまして調査をした具体的なデータはございません。

○谷博之君 いわゆる有害駆除で捕獲されたニホンザルの個体をこういう大学医学部の研究機関に活用するということ、これはそのことについて、平成十三年の一月三十一日に「大学等における実験動物の導入について」ということで通達が文部科学省の研究振興局長名で出ております。これは国立大学の各学長名で出ているわけでありますけれども、ここにこういうことに書いてあります。

 先般、一部の動物供給業者により、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律等に違反し無許可で狩猟及び捕獲したニホンザルが大学等に納入されていたとの報道がなされましたと。鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律等関係法令に基づく飼養許可証の確認などを励行するとともに、市場価格や動物の状態を総合的に勘案するなどにより信頼できる動物供給業者等の選定に配慮し、常に適正なものとなるように要請するという、こういう要請文が出ているんですね。

 これは、今の御答弁からいうと、そういうことはないというか、そういうふうに聞こえますが、これはどういう関係なんですか、これは。

○政府参考人(坂田東一君) 昨年の一月三十一日に私どもの局長から大学等の学長にそういう通知をしたことはまず事実でございます。

 そのきっかけとなりましたのは、一昨年の十二月の二十四日ごろといいますか、そのころでございますけれども、報道で、実験用に使われた猿が密売されたかのごとき報道がなされております。その際に、我が省の関係でございますと、例えば阪大でございますとかそれから金沢大学、そういった名前が報道されたわけでございます。

 私どもは、その際に、それぞれの大学に対しまして事実関係を確認いたしました。その結果は、いずれの大学からも、繁殖用の猿ということで業者の方から繁殖証明をもらったということを確認してございます。

 そうではございましたけれども、やはりこのような報道がなされたこともございましたので、改めて私どもの方から関係の大学の方に、今、先生読み上げられましたけれども、いろいろな関係法令をしっかり遵守するようにということを改めて徹底をしたと、こういうことでございます。

○谷博之君 この問題については、実は私どもの方ではいろんなNGO団体からその具体的な実態調査についての資料もいただいておりますが、今日は時間がありませんのでそのことは省略をいたします。

 ただ、いわゆるこういう研究機関の大学のそれぞれ関係者の人たちで作っている学会の場でもこの問題は議論をされているようでありまして、特にそういう意味では環境省の動向を注目しているというふうに我々も聞いています。具体的に申し上げますと、環境省が今考えていることについて、特に捕獲物の処理方法については、捕獲許可の際に予定等を明らかとするように指導するとの文言で、環境省は野生生物、猿の有効利用を実効的に制限するというふうに言っているが、これは弾力的な運営だというようなことに近いような、こういうふうな学会の文書もここにあるわけなんですが。

 それはそれとしまして、私は、基本的にこの問題は、やはり医学の面でどうしてもこういうふうな野生の猿が、あるいはニホンザルのこういう猿が必要だということであれば、もっときちっとそのルールと理念をしっかりさせて、それで議論をした上でこういうふうな形を、今申し上げたように、いわゆる有害駆除として捕獲したその猿を、それもどうも、基本的にはそこで苦痛を与えない形でもって殺処分というのを原則としながら、一方ではその猿をそういう医学的なものに使うということであれば、そういう一つの理念なり考え方をきちっとやっぱりここで持つべきだと思うんですね。

 これは現に、日本は唯一野生の猿が生息している国でありますし、そしてまた一方では、欧州ではもう霊長類に対する実験というのはもうほとんど使われていないんですね。そういうふうな外国のそういう例もありますので、私はやっぱりそういうふうなルール作りをきちっとするべきではないかというふうに考えています。

 この点についてどういうふうに考えておられますか、文部科学省で。

○政府参考人(坂田東一君) 申し上げるまでもないことではございますけれども、これからの日本の国民の医療、福祉の向上等、あるいは健康の増進、そういった観点からライフサイエンスの研究をしっかりしていくと、脳科学の研究ももちろんそれに含まれると思いますけれども、そういう観点での大変重要な政策課題が一方であると思います。

 それから、先生御指摘のように、こういうニホンザルといったようなものにつきまして、しっかり適正に保護をすると、これまた非常に大事なことであろうかと思います。

 私どもといたしましては、当然でございますけれども、関係の法令をしっかりと遵守をしながら、ライフサイエンスの研究を進めるに当たりまして、必要またかつ適切な範囲で実験動物をどのように研究に利用するか、これをこれからしっかり検討していきたいと思っております。

 先生がただいまルールということをおっしゃいましたけれども、そういった点も含めまして、将来のライフサイエンスの研究を進めるに当たって、ニホンザルに限りませんが、実験動物というものをどういう具合に使ってやっていくことが一番いいのか、よく検討してまいりたいと思っております。

○谷博之君 それでは再度、小林局長にちょっと確認をしておきたいんですが、私、先ほどお伺いした中で、こういうふうにちょっと質問をしたわけですが、有害駆除で捕獲されたニホンザルの個体に対して、捕獲申請時に記入された処理方法と異なる目的で飼養登録を市町村に出すことは許される行為かということを聞きましたが、これについての答弁をもう一度していただけますか。

○政府参考人(小林光君) それは鳥獣保護法に違反します。

 我が方としましては、有害鳥獣駆除を名目として、例えば実験動物用に野生の猿の捕獲が行われるということはあってはならないと、こう思っております。

○谷博之君 いろいろと質問をしてまいりましたが、最後にちょっと私の考え方を申し上げたいと思うんですが。

 先ほど申し上げましたように、今年の四月から第九次の鳥獣保護事業計画、これが施行されたわけでありますけれども、今指摘してきましたような学術的な捕獲、あるいは有害駆除の捕獲、そういういろんな形でも、脳神経医学研究利用を目的にニホンザルを飼養登録することはできないものと私は基本的に考えておりますと。ただし、しかし一方では、動物実験の中でそうしたものがどういうふうにこれから活用されるかについては今後の大きな課題だというふうに思っております。

 したがって、改めて、そういったことについての合法的かつ透明性の高い手続をこれから是非検討していただきたいというふうに考えております。

(以下略)

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