平成元年(1989年)に出された質問主意書です。「動物の保護及び管理に関する法律」の最初の改正の10年前であり、動物実験反対運動も日本においてはかなり初期の頃です。主に自治体の動物保護行政のあり方と動物実験の法規制について聞いています。

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平成元年十一月二日提出
質問第六号

動物保護及び動物福祉の確立に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  平成元年十一月二日

提出者  森田景一

          衆議院議長 田村 元 殿

動物保護及び動物福祉の確立に関する質問主意書

 欧米諸国においては、人間以外の動物についても、その生命を尊重する観点から、動物の虐待を防止し、その愛護を高めるための施策が古くから行われてきた。

近年、欧米諸国においては、動物に対する扱いを一層、より人道的なものにすべきだとする「動物福祉」の考え方が確立され、あるいは人間による無制限な動物利用に反対し、動物の固有の権利を積極的に擁護すべきだとする「アニマルライト(動物権)」という考え方が提起されるなど、より充実した動物福祉施策が講じられつつある。

また、特に動物福祉の立場から、これまで科学の名の下に無批判的に肯定されてきた動物実験の在り方(残虐性)にも厳しく眼が向けられ、動物実験を厳しく規制する法制度が整備されるに至っている。

一方、我が国においては、昭和四十八年に動物の保護及び管理に関する法律(以下「動管法」という。)が制定され、市町村の関係条例とともに動物保護管理行政が実施されてきたところである。

しかしながら、法の施行後すでに十六年を経過した現在においても、この動管法の存在すら一般はもとより行政においても、何ら認識されるに至っていない。また、遅れ馳せながら制定された動管法も“動物虐待王国・日本”の批判をかわすために形式的に作られた感があり、動物保護という法の精神を担保する具体的措置を欠き、甚だ実効性に乏しいと言わざるをえない。

こうしたことから、我が国においては、動物保護又は動物福祉の思想が依然として確立されず、増える一方の捨て犬・猫問題を始め動物の残虐な扱いが後を絶たず、いまだ文化後進国と言わざるをえない状況が続いている。特に動物実験においては、欧米諸国が動物福祉の立場から法律等による具体的な規制を着々と実施しているにもかかわらず、我が国においては近年になって、ようやく実験者任せの形式的な指針が一部の大学等から出された程度であり、遅々として対応が進んでいない。

もとより、動物保護の在り方にしても、また、動物実験の規制にしても国民のコンセンサスを必要とする事柄ではあるが、行政が積極的に先導してこそ動物福祉の成果が挙げられ得るところである。

近年、行き過ぎた人間中心主義が地球環境の破壊をもたらし、人間の生存そのものを直撃しようという、誠に教訓的な現状と実例を目の当たりにする時に、我々は人間と動物の共存の在り方を真剣に熟慮すべきである。特に科学の名の下にどのような残虐な行為も許容されてきた動物実験について、その現状と正当性を厳しく問い直し、科学と動物福祉を両立させる方策の確立が強く求められている。

人間と動物が、可能な限り一方的な犠牲と負担を負うことなく共存と調和のうちに生きられるヒューマンな社会と地球の創造こそ、我々の目標とすべきである。

以上の観点から、我が国の動物福祉の向上を図ることが緊急を要すると考える。

従って、次の事項について質問する。

一 動物保護行政の現状と改善等に関して

 現在、我が国において、捨て犬・猫の数は年間約八十万匹に及び、それらのほとんどが保健所や動物愛護センターにおいて殺処分等行政処分されるという動管法の精神にもとるような現状が長年続いている。このような事態について政府はどう考えているか。

 このような現状をもたらしている原因として、飼い主による終生飼育義務や放棄・虐待等に対する罰則等が周知徹底されていないところにもあるが、政府は動管法の周知徹底のため、現在実施している対策と予算及び今後の計画について伺いたい。

 現在の動物愛護センターは、捨て犬・猫の引取りと殺処分業務に追われており、捨て犬・猫の里親捜しをするというセンター本来の役割が忘れられている。政府は、今後、捨て犬・猫の里親捜しを充実するため、どのような対策を講じる考えか具体的に伺いたい。また、安易に動物を大学等に実験動物として払下げを行っている事例もあるが、これを中止すべきと考えるがどうか。

 現在、地方自治体の各保健所において、住民サービスと称して定点を決めて収集したり(神奈川県)、ドッグポストを置いたり(北海道)、あるいはごみ箱に犬・猫を捨てさせたりするなど動物保護の精神に反した安易な引取り方法が採られている。こうした方法は動管法に反した行為として行政指導により改めさせていくべきであると思うが、見解を伺いたい。
また、愛護センターでの譲渡の対象を子犬・子猫に限っているが、これを欧米で行われているように不妊・去勢手術した成犬・成猫も対象とすべきであると考えるがどうか。

 今後、動物保護行政の充実を図るために、各地方自治体に「動物保護課」(又は「動物福祉課」)を設け、専門指導員を置き、虐待の防止や保護の徹底を行っていくべきと考えるがどうか。

 行政による安易な引取りは無責任な飼い主の増大を助長させているが、今後、飼い主の義務と責任を強化していくためにも、やむを得ない場合のみ引取りをするようにすべきと思うがどうか。

 犬・猫の不妊手術・去勢手術が広く普及していないこと、またその費用が高い(欧米が三千円から七千円であるのに対し、我が国は二万円から七万円が相場)ことが捨て犬・猫の増大をもたらしている大きな原因ともなっている。
従って、一部の地方自治体で行われている、手術に対する補助金制度を広く普及させるために、国の補助制度として確立すべきである。また、飼い主に対し、これらの手術を励行させていくべきであると考えるがどうか。

二 動物実験の在り方について

 動物実験は、医学、薬学及び栄養学等における化学物質の安全性評価や動物学等の学問の発展に不可欠なものとして重要視されているが、政府は科学の発展や人類の福祉のためには、実験動物に対しどのような残酷な扱いも許されると考えているか。

 民間の動物保護団体等の告発により、一部において相当残酷な動物実験が行われている状況が明らかにされているが、政府においてはどのように実情を把握しているか。調査結果があれば報告し、無ければ調査する予定があるかどうか。

 動物実験の結果は人間にそのまま当てはまらない場合があるなど限界や問題点も多いが、政府は動物実験の限界をどのように認識しているか。

 動物に対し言葉には表現できぬほどの苦痛と犠牲を強いる場合が多い動物実験は本来、必要最小限にすべきであり、今後、動物福祉の立場からも動物に代わる実験材料を開発していくべきである。欧米諸国においては、培養細胞等を使った代替実験法が国レベルでも企業レベルでも研究されているが、我が国でも行うべきであると思うがどうか。行っていればその概要を明らかにされたい。

 LD五〇という毒性評価方法は、実験動物の半数を致死させることにより、特定物質の毒性を評価するものであるが、米国等においては動物福祉の立場からは大きな問題があるとして、それより動物使用数が極めて少なくて済む限界試験(LBT)がとって代わられつつあるが、我が国もこれを習うべきではないか。現状とともに、見解を伺いたい。

 現在、動物実験の中で動物保護団体等からもっとも強い批判を浴びているのが、生きている兎の眼に薬物を注ぐドレイズテストであるが、我が国においては、東京工業大学の岡畑恵雄氏が資生堂の協力で兎を使わず目の毒性を簡単に測定することが可能なセンサーを、また、東北歯科大学の川崎教授らが生ごみとしての豚や牛の眼球を使う方法と装置をそれぞれ昨年、開発している。これらについて早急に評価し、ドレイズテストに代わる代替実験法として採用すべきであるがどうか。

 米国の国立衛生研究所においては、人道的な動物実験でなければ研究費がもらえない仕組みになっている。また、英国においてはライセンスを持たない研究者は動物実験ができない仕組みになっている。こうした方式を我が国も取り入れるべきであるが、見解を伺いたい。

 現在、我が国において大学等から出されている「動物実験指針」のほとんどは基本的には実験者の自主性と良心に任されている。これでは非人道的な動物実験についてチェック出来ない。動物実験の公開など外部からチェック出来る仕組みを作るべきではないか。

 民間の医薬品製造企業等において、動物実験のチェックはどのように行われているか、資料を示してその概要を明らかにされたい。

三 関係法の法改正について

 以上の観点から多くの問題点を持っている現在の動管法について、より動物福祉の強化を図るために法改正を行うべきと考えるが、見解を伺いたい。

 動物実験は、以上のように科学的にも動物福祉の立場から大きな問題点を持っている。また、今後、科学性と動物福祉を両立する新しい方法の確立が要求されている。その意味で、新しい「動物実験規制法」を制定すべきであると主張するが、見解を伺いたい。

右質問する。


衆議院議員森田景一君提出
動物保護及び動物福祉の確立に関する質問に対する答弁書

平成元年十一月二十八日受領

答弁第六号

  内閣衆質一一六第六号
平成元年十一月二十八日

内閣総理大臣 海部俊樹

衆議院議長 田村 元 殿

衆議院議員森田景一君提出動物保護及び動物福祉の確立に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員森田景一君提出
動物保護及び動物福祉の確立に関する質問に対する答弁書

一の1について

動物の保護及び管理に関する法律(昭和四十八年法律第百五号。以下「法」という。)第七条の規定に基づき都道府県又は政令で定める市(以下「都道府県等」という。)が引き取る犬の数が逐年減少していることなどにみられるように、法の施行により、動物愛護思想は国民の間に次第に普及してきていると考えている。
今後とも、動物の終生飼養や繁殖制限等について、飼養者の意識の向上を図ってまいりたい。

一の2について

動物愛護思想の普及啓発を図るため、ポスター、パンフレット等の作成、配布等の事業を実施するとともに、動物愛護週間には、地方公共団体と連携して、その趣旨にふさわしい各種の行事を実施してきており、平成元年度予算にはこれらの経費として三千四百七十三万円が計上されているところであるが、今後とも法の周知徹底に努めてまいりたい。

一の3について

都道府県等において引き取った犬及び猫については、犬及びねこの引取り並びに負傷動物の収容に関する措置要領(昭和五十年四月五日内閣総理大臣決定。以下「措置要領」という。)により、飼養を希望する者へ譲渡するなどできるだけ生存の機会を与えるように努めることとしているところであり、都道府県等に対し、この趣旨を更に徹底してまいりたい。
また、措置要領においては、引き取った犬及び猫について、飼養を希望する者を見いだし難い場合には、科学上の利用に供することもやむを得ないとの観点から、教育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供する者への譲渡を認めているところである。

一の4について

犬及び猫の引取りについては、法第七条の規定により、都道府県知事等は、引き取るべき場所を指定することができるとされており、具体的に引取り場所を指定するに当たっては、住民の便宜や地域の実情等に応じて、なるべく多くの引取り場所を選定するように努めるよう指導しているところであるが、今後とも適切な引取りが行われるよう努めてまいりたい。
また、引き取られた犬及び猫については、措置要領により、できるだけ生存の機会を与えるため、飼養を希望する者を見いだすことに努めることとしているが、実際には、成犬及び成猫については、飼養を希望する者がほとんどいないところである。

一の5について

現在、すべての都道府県等において、動物の保護及び管理に関する行政を担当する課が定められ、動物に関する専門知識を有する職員が配置されて、動物の保護管理行政の充実が図られているところである。

一の6について

犬及びねこの飼養及び保管に関する基準(昭和五十年総理府告示第二十八号)により、犬又は猫の所有者に対し、やむを得ず犬又は猫を継続して飼養することができなくなった場合には、まず適正に飼養することのできる者に当該犬又は猫を譲渡するように努めることとし、新たな飼養者を見いだすことができないときにおいて都道府県知事等に引取りを求めることとするよう指導しているところであり、今後とも飼養者に対し、終生飼養に努めること等を十分徹底させてまいりたい。

一の7について

法第九条の規定により、犬又は猫の所有者は、これらの動物がみだりに繁殖してこれに適正な飼養を受ける機会を与えることが困難となるようなおそれがあると認める場合には、不妊手術、去勢手術等の措置をするように努めなければならないとされているところであり、犬又は猫の不妊手術等に対し国の補助制度を設けることは適当でないと考えている。

二の1について

動物を科学上の利用に供する場合には、その利用に必要な限度において、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によってしなければならないことは、法第十一条において規定されているところである。

二の2について

動物実験を実施するに当たっては、法、実験動物の飼養及び保管等に関する基準(昭和五十五年総理府告示第六号。以下「実験動物基準」という。)、大学等において定める「動物実験指針」等に従って、その目的とする科学上の利用に必要な限度において、できる限り実験動物に苦痛を与えないよう措置され、適正な動物実験が実施されているものと考える。
なお、当面、動物実験の実情調査を行う予定はない。

二の3について

実験動物と人間との間には、化学物質に対する反応等において相違が存在し、動物実験の結果を直ちに人間へ適用することについては、慎重に行うことが必要であるが、化学物質の人間に対する安全性等を確保するためには、動物実験は不可欠であると考える。

二の4について

実験動物の適正な使用の確保のため、効率的な利用法の確立、代替動物の開発や微生物の利用等による模擬技術及び代替実験系の確立並びにシミュレーション技術等の代替手法の開発について、長期的な視点から研究開発が必要であると認識している。
このような認識の下に、政府においても、調査研究を実施しているところである。

二の5について

医薬品の安全性に関する試験については、「医薬品毒性試験法ガイドライン」により、その標準的な実施方法を示し、急性毒性の評価方法としてLD五〇を求めてきたところであるが、平成元年九月の改正により、これに替えて概略の致死量を求めることとし、その普及を図っているところであり、これにより使用する動物の数が減少することとなる。
なお、概略の致死量を求める試験は、毒性が低い被験物質の場合には、限界試験と同じになる。

二の6について

東京工業大学及び東北歯科大学において開発された試験方法は、現在その有用性について研究が行われている段階のものであり、安全性評価のための試験方法として確立するためには、更に研究を進める必要がある。
したがって、これらの試験方法は、現在のところドレイズテストに代わる試験方法として採用できる状況にはない。

二の7について

我が国においては、動物愛護にも配慮しつつ、適正な動物実験の実施が図られているところであり、動物実験についてライセンス制度等を採ることは考えていない。

二の8について

科学的にはもとより、動物愛護の観点からも、適正な動物実験が行われるように、法、実験動物基準及び昭和六十二年一月の学術審議会の報告を踏まえ、各大学等において、動物実験を実施する際に遵守すべき事項を示した「動物実験指針」を定めるとともに、その適正な運用を図るため、当該大学等の実験動物の専門家、実験者、その他当該大学長等が必要と認める者で構成する動物実験委員会の設置を進めるなど、適正な動物実験の実施が図られているところである。

二の9について

民間の任意団体である日本製薬工業協会において、医薬品の製造に係る研究開発を目的とした動物実験を行うに際しての留意事項をまとめた「実験動物技術者のための教育資料」が策定され、加盟各企業に対してその周知が図られているところである。これは、実験の種類及び目的に応じて留意すべき要点等を具体的に示すことにより、使用動物の数を極力少なくするとともに、動物に与える苦痛をより少なくすることにも配慮したものである。

三の1について

法は、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱い、その他動物の保護に関する事項及び動物の管理に関する事項について幅広く規定している。今後とも、これに基づいて、動物愛護思想の普及啓発、動物の飼養及び保管に関する基準の徹底、犬及び猫の引取り等の諸施策を実施することにより、国民の間に法の趣旨を更に周知徹底させることとしているところであり、法を改正することは考えていない。

三の2について

我が国では、法及びこれに基づく実験動物基準等により、動物を科学上の利用に供する場合には、その利用に必要な限度において、できる限り実験動物に苦痛を与えない方法によって行うこととされているところであり、動物実験に関し新しい法律を制定することは考えていない。