日本実験動物技術者協会第7回実験動物技術フォーラム レポート

 

(AVA-net会報 2005/7-8 113号 掲載)
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2005年5月20日 タワーホール船堀

 
5月18日~20日に開催されていた第52回日本実験動物学会の関連集会として、「動物愛護管理法改正により『動物実験』は変わるのか?」という挑戦的(?)なタイトルのフォーラムが開催されました。

まだ法案が国会に提出されていない段階での開催ですが、動物愛護法が改正されることにより、動物実験がどのように変わるのか、または変わらないのか、がテーマとなっていました。

■動物実験は苦痛を伴う

講演者は4名で、まず慶応義塾大学動物実験センター長の下田耕治氏が、予定されていた環境省動物愛護管理室長・東海林克彦氏に代わって、動物愛護法の概要と改正のポイントを説明、実験動物に限らない全般的な解説を行いました。

国それぞれに動物に対する考えが違い、日本には日本人の考えをもとにした法律がつくられていること、また法律は人のためにあるものであって、動物のためにあるわけではないことなどが強調され、事実ではありますが、どこかそれを楯にとっているような印象を受けました。

しかし、まだ下田氏が良心的であったのは、「動物実験は、実際には苦痛をかなり与えていると思われる行為」と、実験中の苦痛について正直に認めている点です。研究者の中には、現行動物愛護法24条があるのだから、まるで動物実験の苦痛はすべて取り除かれているかのように主張する人もおり、注意が必要です。

■実験動物と動物実験?

このフォーラムでも、「実験動物と動物実験は切り離し、同じ法律では扱わない」ということが繰り返し話題になりました。愛護法は、動物の福祉の向上には関わるが、動物実験の部分については切り離して考えるという考え方です。

動物実験の部分については文部科学省、厚生労働省などが受け持つという点で、環境省の見解と足並みがそろっており、引き合いに出す海外の例がカナダである点まで共通でした。

■あくまで自主管理で

次に管理者の立場からの話をした熊本大学教授の浦野 徹氏(生命資源研究・支援センター)によれば、昨年3月~4月、環境省と実験関連団体の打ち合せが開催された際、環境省から示された論点は3つあったそうです。

まず、動愛法への3Rの導入はどうか? これに対する回答は、「反対しない」。生産者団体のみ、「削減については慎重に」という意見でした。

次に、行政による実験施設の所在地等の把握の必要性についてですが、当時は「届出先は慎重にすべきだが、反対しない」といったん回答していたそうです。

しかし法律家による指摘をうけ、登録抹消などの措置や、査察の可能性があり、届出先も国ではなく自治体の可能性があるということで、自主管理を困難にする許認可制度につながるとして、届出反対の考えに態度を変えたという話でした。(注:現実には届出制では登録抹消などの措置はとれません)。

3つめ、行政機関による実験動物の飼養保管の状況の指導の必要性をどう思うかという問いに対しても、現在と同様、自主管理で行うべきだと回答したとのことです。

これらの流れが、昨年7月の日本学術会議の提言に意見集約されたと位置づけてよいとのことでした。

■ガイドラインと第三者評価

その学術会議の提言にある、全国統一のガイドライン策定と、第三者による評価システムの構築に関してですが、ガイドラインは、基本指針と詳細指針との2つに分けられ、基本指針は行政(文部科学省)が、詳細指針は専門家が、それぞれつくるとなっています。そのためにすでに今年、実験関係者団体の意見交換会が3回開催され、詳細指針策定ワーキングチームが作られました。

WTメンバー
玉置憲一(日本学術会議)
篠田義一(東京医科歯科大)
佐神文郎(日本製薬協)
浦野 徹(熊大)
八神健一(筑波大) など計11名
事務局 鍵山直子

第三者評価に関しては、評価を希望する施設のみが対象で、動物実験施設すべてを対象とするものとはなりそうにありません。ガイドラインを守っていない施設に公的な研究費が出ないしくみをつくる可能性も話には出ましたが、査察もないのに、はたして実現するでしょうか?

ガイドラインも、非公開で研究者が集まってつくるのなら、身内に都合のよいものになることは間違いありません。1年後の策定が目指されているようですが、そのまえには文部科学省の指針のパブリックコメントもあり、多くの市民の意見が待たれるところです。

■改正案に対して

動愛法改正案については、動物取扱業が登録制へかわり、届出制が許認可制へ変わるということを裏付けたとして、警戒心を表していました。新41条については、やはり「代替」と「削減」は配慮事項にすぎないことがポイントと明言されています。

■動物実験は変わるか?

動愛法改正後、実験動物の飼養管理基準が改正され、統一ガイドラインができ、第三者評価が実施された場合、研究者としては、国内外に適正に動物実験が運用されていると示すことができると考えているようです。

浦野氏によれば日本の動物実験の現状は、

(1)3Rに配慮している、
(2)適切な施設が設置されている、
(3)組織が整備されている、
(4)指針があり、委員会が実験計画書を審査している、
(5)獣医学的管理のもとに適正に飼養している、
(6)情報公開法により広く国民に情報を開示している、

とのことで、近い将来ガイドライン等がそろった場合、(1)~(6)をちゃんと行っている施設には影響はなく、どこかひとつでも不備がある施設は動物実験の実施を行うことは難しくなるという、2極分化が起こるのだそうです。

逆に言えば、いま現在不備がある施設があることを認めているわけですが、ここでひとつ認識が誤っているのは、(6)の情報公開法による情報開示には、私立大学や製薬企業などはまったく含まれないことです。もし(1)~(6)がすべて行われない実験施設が動物実験を行うことができなくなるのなら、私立大学や製薬企業も実験は行えなくなります。動物実験の情報開示手段として、情報公開法は不十分であることを、実験を行う側が認識していないことは問題だと感じました。

■生産者の考え方

生産者業界からは、日本実験動物協会動物福祉専門委員会委員長である田口福志氏(日本クレア)が、動物福祉推進事業などの取り組みについて話をしました。

まだ5社程度ですが、第三者による生産施設の調査と指導を模擬的に実施したとのことで、法改正後は指針の改定など、少しは変わってくるのではないかという結論ですが、あまり熱意ある印象は受けませんでした。

「代替」が新41条に入ることについては、生殖工学の発達で、注文があってから生産し、無駄な動物はつくらない傾向にあること(裏返せば昔はどれほどの無駄があったのか?)、また、オス・メスの需要のアンバランスによる余剰の問題などの話が出ました。

■技術者の考え方

日本実験動物技術者協会副理事長小山内努氏(北海道大学)の話で興味深かったのは、2003年に行った協会会員への意識調査アンケートの結果です。

小山内氏にとっては意外な結果ではなかったそうですが、なんと「動物実験反対の運動についてどのように思われますか?」の設問については、「反対の主旨によっては理解できることがある」に、7割の回答があったそうです。数字が一人歩きしては困るため、公表するべきかという議論さえ行ったそうですが、現場で実験動物の世話をする技術者の人たちが、もっとも一般市民に近い感覚を持っていると改めて感じました。

■3Rを担うために

技術者協会では、倫理的配慮などをもりこんだ実験動物基準の改正案を作成、また動愛法改正についても、考え方の「まとめ」を環境省へ提出するなどしています。

内容としては、「動物実験は動物に苦痛を与える行為である」ということを明確化、専門的な知識を有した人間が、ライセンスのもとに行うべきとし、国家資格化を目指しています。

また技術者協会は、業界団体の中で唯一、「法によるある程度の規制は受け入れる必要がある。自主規制では国民の理解は得にくい」と表明する団体です。一部の学会を除けば、「実験を行う先生方は2年3年実験をやったらそれでおしまいだ」という現実を見すえた発言もあり、動物福祉に対する責任を負っていきたいという意識は感じました。

■フォーラムの結論

日本の動物実験は変わるのではないか、変えていかなければいけないというまとめではありました。しかし、「法規制はわが国にはなじまない」「時期尚早」「動愛法では動物福祉からの規制になってしまうのでいやだ」など、関係者の身勝手ぶりを改めて感じました。「民主党案では動物実験が虐待だという解釈になってしまう」といった、特定の政党案をかなり曲解した意見もでており、政治的な意図すら感じます。

「法規制にしたほうがよい」という会場からの意見もありましたが、結局のところ、反対運動にどう対抗するかが主眼であり、決して動物たちのためではないのが残念です。

現実には日本の実験施設については、浦野氏ですら「今の時点で100点満点ではない」としています。「これを100点満点に近い段階に持っていくために統一ガイドラインなどがある。次の改正まで5年間、試せということだ。しっかりとこの5年間をやっていかないと、5年後の改正では別の形での改正も起こりうる。」 この言葉を市民側も忘れずに運動を継続していきましょう。

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