日本の動物実験関係者が「日本はアメリカ型の自主規制体制」などと言っているのは真っ赤なウソで、アメリカも動物福祉法上、動物実験施設に課せられている義務事項はいろいろありますよ~!という話も続けたいところですが、やはり日本です。
今月21日、環境省のあり方検討小委員会の第25回が開かれ、パブリックコメントの結果発表と、最終的なとりまとめ文書である「動物愛護管理のあり方検討報告書」(見え消し修正版)についての議論がありました。
同じ日に、親会である動物愛護部会でも同じ報告書修正案と政令改正(基準改正)についての議論がなされ、1年半近くにわたり続けられてきた動物愛護法改正への論議も終わることとなりました。
通常、とりまとめ文書というのは審議された結果について一定の方向性を示す形で文章が書かれますが、この検討報告書は、意見が対立したところについては結論を出さずに両論併記にしており、重要課題について結論を出さなかったのが特徴ではないかと思います。
動物実験施設の届出制についても両論併記で判断保留になっているので、市民側の意見が反映されなかった点だけをどうしても見てしまうのですが、しかしそもそも日本の審議会制度は、省庁の意向に反した少数意見を言う委員は言い訳程度に1、2人だけ入れ、座長は省庁の代弁者、とりまとめ案も完全に省庁の意向丸出しで書かれる(業界のほうは向いてるけど市民の意見は抹殺)という形式で行われてきた歴史があるわけで、そういう意味では、他の省庁から「やるな!やるな!」の横槍が入っている状況下で判断保留にした環境省は、まだ良心的だと考えるべきなのかもしれません。(…悩)
しかし法案では白黒がつくわけですから、どうするの?と思うわけですが、それについては、これまでの改正と同じく議員立法で法案提出がなされるとのこと。少し前からそういう雲行き濃厚でしたが、はっきりそうなるという説明が、最終回になっていよいよ示されました。
つまり、報告書では白黒つけられなかったので、あとの政治的判断は国会議員にお任せします~ということです。環境省からは、「政治的判断が必要な事項もあるため。与野党の議員も関心を持っているため」といった説明がありましたが、実際には環境省から与党にお願いをしており(この耳でも聞いちゃったしね~、そこは書かざるを得ないわ~)、その方向が決まってようやっと、こういうグレーな報告書で手打ちにすることができたという展開ではないかと思います。
ということで、年明け1月から与党でも新たに仕切りなおしの体制で検討が始まります。法案までまだまだこれからですが、実際にはこれからが猛スピードですね・・・。すぐ半年経って、「あー、年末にはあんなこと書いてたなー」なんて涙目しそうな気がしつつ・・・、以下21日の概略です。
○パブリックコメントの結果
意見数
全体
個人 55,783 
団体 138
実験動物の取扱い
規制すべき(規制を強化すべき) 24,286
現行のままとすべき         834
ずいぶん数が違っていて、少しほっとしました。もちろん、パブコメは数ではないし、「規制すべき」という意見の中にはコピペで行った分もかなりあると思いますが、実験動物について2万を越す人たちが意見を寄せたことはこれまでなかったと思うので、じんわり感動しちゃいました。
まとめでは、研究者側の「現行のままとすべき」の意見は、何やら長くたくさん取り上げられているものが多かったのに対し、「規制するべき」の意見はかなり簡素化されてますね。「その他」の中に入れられちゃったりね。
今回は、斉藤委員の要望があり、自治体の意見のみ抽出して別冊子になっていたのも興味深かったです。自治体だけ優遇してずるいじゃんか~と一瞬思いましたが、自治体の中でも意見が対立しているものも多く、どういう背景があってその意見に達するのか、やはり公務員については自治体名を添付して公開してほしかったな、と思いました。
実験動物については、自治体の意見では「動物実験施設の把握はすべき」「実験動物については届出制度が必要」などの意見もありました。また、「問題はない」とする意見であっても、「立入権限は必要と考える」とされていたりしていて、なかなか心強い感じだったのですが、事務局(環境省)の読み上げ説明はなんだか逆の視点だったような気がします。orz
○他省庁からも環境省に意見書が!
傍聴者には非公開とのことで配布されませんでしたが、文部科学省、厚生労働省、農林水産省からも環境省に対して意見書が出されたそうです。たいして枚数もない公文書を非公開にする意味がよくわかりませんが(Why~?)、動物を愛する一般市民にはあまり見られたくない内容なのでしょう。
内容は、動物実験施設の規制、闘犬・闘牛、学校飼育動物、マイクロチップについてだそうです。
普段は「動物福祉は環境省ですから」などと都合よくタライ回しに使っておいて、いざやらなきゃいけないときには、こういう圧力をかけるんですからねぇ・・・。
○「動物愛護管理のあり方検討報告書」について
修正された場所は、法改正前に基準(政令)改正によって対応することになった部分や、部会の委員の意見を反映した部分などでした。実験動物については、一切変更なし! 「あーあ」な気分です。
小委員会の議論も、具体的な文章についての指摘ではなく、いままでの意見のまとめが出ただけだったので、浦野委員が「座長がいままでと同じ議論の繰り返しはするなということだったので、ここでの反論は繰り返しになるのでしません」と一言言って終わり。
これだけで話が終わっちゃいました。このとりまとめの文章、かなりおかしなことが書かれていると思うんですけどね・・・。(実験動物のところね)
しかし、実験動物以外のところを全然書いてこなかったのを少し反省して、各項目について概要と、修正されていた点、また、この日の議論でさらに修正が検討された点などを少しまとめました。(長文ご容赦)
・動物取扱業の適正化
(1) 深夜の生体展示規制
⇒基準改正によって法改正前に実施。
 生体を展示してよいのは、朝8時~夜8時になる。公布日未定。
※犬猫のみとするか、すべての哺乳類までとするかで、最後の最後まで議論がされた。座長のまとめとしては、犬猫とそれ以外と、段階的に規制を行う表現に変更するとのこと。
展示業を含むかどうかは議論されていなかったが(実際には第25回で指摘した委員がいたが、意図が理解されていなかったと思います)、部会で示された環境省の改正案には展示業等すべての取扱業者が対象として書かれており、また議論に。
(2) 移動販売
なんらかの規制が必要という結論。(基準強化)
(3) 対面販売・対面説明・現物確認の義務化
インターネット販売には問題あり。販売時の対面説明等を義務化する。
(4) 犬猫オークション市場(せり市)
基準の設定や、監視が必要。トレーサビリティーの確保も必要。
⇒基準改正によって動物取扱業の対象に含める。法改正前に実施。
(5) 犬猫幼齢動物を親等から引き離す日齢
幼齢の動物を早期に親兄弟から引き離すことには問題がおおい。ただし、その日齢については45日齢、7週齢、8週齢で意見が割れている。(3案併記)
(6) 犬猫の繁殖制限措置
海外では、ブリーダーに対して繁殖回数の制限、繁殖間隔の規制などが行われており、日本でも規制を導入するべき。反論も併記。
(7) 飼養施設の適正化
ケージサイズなど一定の数値基準については、専門家の委員会での議論が必要。各論併記。
(8) 動物取扱業の業種追加の検討
1 動物の死体火葬・埋葬業者
動物取扱業に含めることは法の目的にそぐわない。反論併記。
2 両生類・魚類販売業者
両論併記。
3 老犬・老猫ホーム
(業者に動物の所有権が譲渡される形態の業種)
⇒基準改正によって動物取扱業の対象に含める。法改正前に実施。
4 動物の愛護を目的とする団体
実際に動物を取り扱う団体については何らかの規制が必要だが、動物取扱業とは別の対応が求められるとされた。
5 教育・公益目的の団体
動物専門学校等、教育目的で動物を飼育する施設についても何らかの形で法の枠組みに入れるべきとされた。
※小中学校については、学校飼育動物の項目があるので、ここからは削除されました。
(9) 関連法令違反時の扱い(登録拒否等の再検討)
種の保存法等、動物の取扱に関連する他の法律に違反した場合に、動物取扱業の登録拒否・取消ができるようにする。
(10) 登録取消の運用の強化
現行法の運用が適正になされるよう、細目の書きぶりに具体性を持たせるなどの対応をする。
(11) 業種の適用除外(動物園・水族館)
動物園・水族館を一律に動物取扱業から外すことは困難。
(12) 動物取扱責任者研修の緩和
業種別に細分化をするなど、何らかの工夫をする。
(13) 販売時説明義務の緩和
緩和することは適当ではない。ただし、よりきめ細かい説明項目を検討するとされている。
(14) 許可制の検討
現行法も、取消などが行える点で実質許可制という解説。
・虐待の防止
(1) 行政による保護等
虐待事例は警察との連携強化を図る。
※飼育禁止命令等について、公権力の介入云々と書かれている部分は削除するとのこと。
(2) 取締りの強化及び罰則規定の見直し
何が動物虐待にあたるかをより明確化する必要がある。
※動物愛護担当職員に司法警察権を与えることについては、「警察との連携等により対応するべきである。」という文末に修正された。
(3) 闘犬及び闘牛等
動物取扱業の登録の徹底や獣医ケア等の取り組みが必要。
※伝統行事として社会に受け入れられている事例があることから、「一律に禁止することは適切ではない。」という文末に修正されていたため、議論になった。
・多頭飼育の適正化
現行法の勧告・措置命令の発動条件を明確化する。多頭飼育者の届出制を導入するべきという意見も併記。
・自治体等の収容施設
施設や管理に関する指針を定める。施設の公開は自治体ごとの判断。殺処分方法については、科学技術の進展を踏まえる必要が述べられつつ、財政事情等への配慮も併記。
※引き取り義務の緩和については、引き取りは義務にするべきとの意見も強く(動物福祉の観点からです)、最後まで議論されていた。
・特定動物(危険動物)
 特定の犬種を危険動物として指定するかどうかは、犬種の問題ではないとされた。特定動物の移送時に通過する都道府県すべてに届出をする必要がある点については、緩和も考えられるが休憩地点などは通知が必要とされた。
・実験動物の取扱い
 届出制等については、両論併記。実験動物生産業者を動物取扱業に含めるかどうかについても、両論併記。
・産業動物の取扱い
※畜産動物福祉は、まず一般市民への普及啓発が必要という文末に修正された。
「5つの自由」についても、飼育動物全体を対象とする理念として法に盛り込むことが望ましいという文末に修正された。
・罰則の強化
 虐待の防止の観点から罰則の強化を検討するべきとされた。外来種法との整合性や法人重課などの意見併記。
※器物損壊罪との整合性について追加するべきという意見が出て、入れることになった。
・その他
(1) 犬のマイクロチップの義務化
義務化によって国民にもたらされる利益が現時点では明確でないとされた。
※獣医師以外の者が施術できるようにするという意見に対しては、獣医師の診療行為であるという現状を強調するべきという部会委員(獣医師)の意見(と農水省の意見)が反映されて、文章が追加された。
(2) 犬猫の不妊去勢の義務化
不妊去勢手術の重要性を述べるが、義務化はしない。
※適正飼養をしている飼い主については、「繁殖させる権利を奪うべきではない」という文末に修正された。「国民に利益をもたらすものではない」の部分は、削除するべきという意見があり修正へ。
(3) 飼い主のいない猫の繁殖制限
一律の規制ではなく、地域の実情に合った対策をするべきとされた。
(4) 学校飼育動物および公園飼育動物の適正飼養
学校等に対しても適正な助言等を行う必要があるとされた。
※「文部科学省等を通じて」を削除するべきという意見があり、議論された。
公園動物は、動物取扱業の登録の徹底をはかるべきとされた。
(5) 災害対応
動物愛護法上にも条文を設けて、基本的な事項を定めるべき。また、行政と民間の協力が重要であるとされた。
※自治体間の広域的協力について書き込むべきとの意見が盛り込まれた。
(6) 実施体制への配慮
新たな規制や運用強化には自治体に対して財政措置等の支援が必要。
※追記:
環境省のサイトに資料がアップされました。
動物愛護管理のあり方検討小委員会(第25回)議事要旨
http://www.env.go.jp/council/14animal/y143-25.html
中央環境審議会動物愛護部会(第28回)議事要旨
http://www.env.go.jp/council/14animal/y140-28.html