博士漂流時代  「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス)

博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス)

  • 作者: 榎木 英介
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2010/11/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

いわゆるポスドク問題を扱った本です。最近賞も受賞されたようですが、そのずっと前から図書館で予約していて、やっと順番が回ってきました。それだけ関心が高いということなのでしょうか。
しかしこの問題。自己責任論は完全に間違っているとは思いますが、どうしても他の社会問題と同じような共感や同情や危機感を持って読むことはできませんでした。
自分がその立場じゃないからというのが究極のところなんでしょうけれども、そんなことを言ったら、他の社会問題だってそういうものは多いはず。やはりこの問題が、理系といっても特に、バイオ系で深刻な問題となっていることが、少々冷めた視線で見てしまう理由かもしれません。
この分野には税金から巨額の研究費が投下されているので、任期つきでプロジェクトごとに若い労働力としてポスドクが雇えることは、ある意味とっても都合がいいことなわけですが、任期が終わったら、ハイ、さようなら。大学の教員になるには、門はとても狭い。そして、この分野の余った人材を受け入れるには、実際にはバイオ系の産業というのは、そんなに規模は大きくないんだそうですよ。受け皿はそんなには、ない。
この本の中で、フューチャーラボラトリの橋本昌隆さんという方は、こうまで言っていました。
また、バイオ、ライフサイエンス系の学部、大学院は閉めるべきです。多分、3分の1でも多すぎるくらいです。この分野は、今の日本の産業構造、産業人口と、在籍者数のバランスが悪すぎます。
そうなんですね。なんとなく、業界の「誇大広告」に騙されていますよね、私たちは。
具体的に例示されていたのは、特に農学部系で植物遺伝子をやっている人を減らすべきだという話でしたが、ライフサイエンスといえば、もちろん動物もです。
学部・大学院を大幅に減らしたら、そこで使われる動物も相当減りそうです。
逆に言うと、過去の「博士を増やせ」の政策によって、さらには現在のアンバランスな研究費配分によって、多くの動物が犠牲になってきたのではないかとも感じました。
(そして動物実験代替法のようなものは、なかなか政策的にも進まないから、さらに受け皿少ない。経産省方面は最近やる気あるみたいですが…)
以前、和田秀樹がテレビで、「動物実験の8割は無駄なんだ!」と言ったことがありましたが、これもまさに、医師の世渡りのために博士号取得が必要になってしまっている現状を憂えた発言だったと思います。単に資格がほしいがために論文を書く必要があって、しなくてもいい動物実験がされているという話でした。
優秀な人材が、若い頃の2、3年間、ネズミを診ることに時間をとられてしまうわけですから、現場としては深刻な問題のはずですが…
それは少し話がそれました。この本の著者は、もう少し博士号には肯定的なのだと思います。