ここのところ、福島原発20キロ圏内(警戒区域内)の家畜をめぐって、ずっと違和感を感じていることがあります。それは「実験動物にする」ということが公然と言われてしまっていることです。
その言い方は何なんでしょうか?
確かに餓死も殺処分も理不尽なことですが、では実験動物にするのが、それが動物救護なのでしょうか?
どうしてその言葉が使えるのでしょうか。
実は私も、現地で給餌を続けるために、科学的な目的をつけて立ち入りを許可する等であれば、許容範囲かなと思っていました。科学目的は割とどこでも適用除外ですから(苦笑)、実現したらいいなあなんて思っていました。
しかし、ここに至って南相馬市の種豚が東大付属牧場に移送されるという話が報道され、しかも将来的にどうするのかという話に関しては、全く話をはぐらかすばかりという状況に懸念を強めました。
よって、本日、東大牧場長宛に下記の要望書をお送りしました。
東大牧場での畜産動物の「預かり(返却前提)」を阻止するつもりは全く!ありませんが、実験動物を使うってことは簡単なことじゃないということは広く知られるべきです。
いい手があったみたいに思われるのは本当に悔しい。
科学目的しか許されない方がおかしいのに。
それに、本来、現地ですでに衰弱しているのなら、移動させずに安楽死することが最善の道のはずです。
もともと豚は、ファームサンクチュアリでも最期は結構安楽死をさせているはずです。友人が行っていたときにも、病気がわかってすぐその場で安楽死だった。まだ全然大丈夫と考える段階でも、向こうの人は判断が早い。あとは豚は立てなくなってくるんです。そういうふうに品種改良されているから。
(追記:もちろん、人間本位の理由でするんじゃないですよ。本人のためにしてるんですよ。犬猫の殺処分だって、人間本位の理由でされているから皆怒っているわけでしょう? 苦しい死が予測されるからするものまで批判している時間はないです。)
日本人はこれを知らないで、ファームサンクチュアリ、ファームサンクチュアリと言っているような気がします。
ただ、向こうにはあって日本にはないのは、安楽死用の高濃度の麻酔薬です。結局、これがないから畜産にしても実験にしても、あれもだめ、これもだめというおかしな話になってくるんだと思います。
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2011年5月13日

東京大学大学院農学生命科学研究科 教授
東京大学付属牧場 牧場長
塩田邦郎 様
さよなら

、じっけんしつ
東さちこ

東大牧場での南相馬市の種豚の受け入れに関する要望書
 南相馬市の福島原発警戒区域内で飼育されている種豚を、東京大学付属牧場に移送する話があることを、5月10日のFNNニュースネットワーク(福島テレビ)の報道で知りました。
 
 移送の目的が動物の救命・救護であると聞き、大学の施設がそういった生命尊重・社会貢献の動きに協力することを大変すばらしいものだと感じておりますが、東京大学付属牧場が研究施設である以上、豚の保護された後の処遇について、若干の懸念も感じざるを得ません。
 目先の救命が将来的にもその個体の福祉に寄与するものではない場合があることは、残念ながら、動物愛護の世界においては知られていることであり、南相馬市の種豚についても、一時的な救命さえ求めればよいものではないと感じています。特に、今回の福島原発警戒区域内にとり残された畜産動物の命の行く末については、強い世論の関心があります。
 東京大学は、これら世論を配慮し、豚を、と殺を伴う科学的調査や、いわゆる動物実験等に利用せずに保護し、またそのような保護を行うことを文書等にて確約、公開することを、心より要望いたします。
 また、それらのことを担保するために、以下の点を要望いたします。
● 東大牧場へ移送される動物の所有権は、もともとの所有者である畜産事業者にあるものとし、将来的に返却するための預かりであることを明確にした書類を事業者と取り交わすこと。
● その個体の治療、健康維持等、福祉の目的以外での侵襲的な処置(切開、薬物投与等)を行う実験や、ストレス負荷等を伴う実験には利用しないこと。安楽死についても、その個体の福祉を考慮した場合のみとし、苦痛を伴わない方法によって行うこと。
● 観察、検査等を含め、何らかの科学目的の行為が行われる場合は、事前に動物実験委員会で審査される動物実験計画書の内容の公開を行うなど、その内容について世論の理解を求めること。
 特に情報公開は、東京大学が国立大学法人であり、付属牧場が公費で運営される施設である点でも、必須だと考えます。これらの懸念が払拭されるものであるのかどうか、文書にてご回答をいただきたく、よろしくお願い申し上げます。
以上