インターネット上には、逮捕されたり訴えられたりした人の肩書きが「医師」となれば、脊髄反射で擁護する人たちが明らかにいますよね。山本病院の肝臓手術の事件でも、詳細が報道されていない段階で大量に執刀医擁護のコメントがわいていました。無条件で医師を擁護しようと脊髄反射で書いているとしか思えないし、詳細がよくわからない段階で医師を擁護するインセンティブは医師にしか働かないと感じました。文面からも医師によるものがかなりあると思いました。
医療裁判だって、訴える側には訴えざるを得ない切羽詰った気持ちがあると思うんだけど、読むに耐えないコメントがインターネット上にはいっぱい・・・。なんか病院にいくのもコワい時代になりましたよね(って、もともと行かない奴に言われたかないだろうけど)。
なので、日本医師会がこういうものを出してきたのは、「お医者さんにもまだ良心は存在していたのね~(;;)」と、ちょっと感動的でもあります。
「高度情報化社会における生命倫理」についての報告

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「自分の主張を延々と繰り返す『頻回・大容量発信』は、もはや主張ではなく、『荒らし』である」は、インターネット史に残る名言かも(笑)。
以下、インターネットに関係する部分を読みたい方はクリックしてください。


2. 医師によるインターネット言論について
インターネットの普及・発展により、従来は情報発信の機会が極めて限定さ
れていた個人が、不特定多数に対し、放送法や電波法に基づく行政府の免許を
受けることなく、極めて小さな経済的負担と引き換えに、大量の情報を発信す
ることが可能となっている。また、インターネットでは匿名で情報を発信する
ことが可能(ただし、後述するように理論的には追跡は可能)であり、情報発信
者としての責任を十分に自覚しないままに発信手段を手に入れてしまった個人
による様々な問題が生じている。
医師がその被害者となる事例があることはもちろんであるが、逆に医師が加
害者となる事例もある。特に、医療事故の被害者(あるいは医療事故の可能性の
ある傷害を受けた患者)ないしその家族、医療機関内部の不正を告発する内部告
発者(いわゆるホイッスルブロワー)、医療政策に関わる公務員個人、報道機関
の記者個人等を対象とした不注意な言論が、社会の医師というプロフェッショ
ンに対する信頼を損なう結果につながることが強く懸念される。
(1)インターネット言論で生じる法的諸問題
インターネット言論で生じている様々な問題のひとつに、「ネット嫌がらせ
(cyber-stalking)」がある。「ネット嫌がらせ」は、「個人ないし個人の集団が、
他の個人、集団、ないし組織への嫌がらせを目的として、情報およびコミュニ
ケーション技術、特にインターネットを用いること」である。手段としては、
誣告(ぶこく;故意に事実を偽って告げること)、監視、脅迫、なりすまし、デ
ータ/コンピュータ攻撃、嫌がらせ目的の情報収集、プライバシー侵害等があ
る。これらの行為に対しては、民事上・刑事上の責任追及がなされる場合があ
る(民事上の名誉毀損やプライバシー侵害を原因とする損害賠償、刑事上の名誉
毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪、業務妨害罪、脅迫罪、その他に迷惑防止条例違
反、等)。
ここで、医師が職業上知ることとなった患者のプライバシーを漏洩した場合
には、刑法134 条1 項により守秘義務違反に問われることになる。また、直接
診療に関わっていない患者の診療記録を本人の許可なく閲覧する行為は、それ
自体がプライバシー侵害である。さらに、情報入手手段の合法性の有無に関わ
らず、患者個人の情報が漏洩された場合、医療機関側に秘密漏洩罪や個人情報
保護法違反、プライバシー侵害による不法行為の問題が生じ、不正に入手した
情報を漏洩した者は、その共犯(ないしは共同不法行為者)として処罰されたり、
民事責任を追及される可能性がある。
(2)インターネット言論における匿名性とプロバイダ責任制限法
インターネットは、匿名または仮名による情報発信が可能な媒体であり、イ
ンターネットで多くの問題が生じている原因の多くは、この匿名性にあると考
えられる。しかし、インターネット言論が刑法上の犯罪行為に該当する可能性
がある場合、捜査権限を有する者(警察等)はインターネットサービスプロバイ
ダや掲示板・メーリングリストの管理人などに対し、通信履歴の開示を求める
ことができ、ケースによっては捜索・押収も可能である。また、インターネッ
トによる情報の流通によって特定個人の民事上の権利侵害があった場合、その
被害者はプロバイダや管理者に対して、発信者情報の開示を請求することがで
きる(プロバイダ責任制限法)。したがって、インターネットの匿名性は決して
保証されたものではない。
(3)インターネット上の荒らし行為
インターネット言論で生じているもうひとつの問題として、「荒らし
(vandalism)」行為がある。「荒らし」は、特定の掲示板やブログの妨害を目的
としたものが多いが、特定の個人に対する嫌がらせを目的とするものや、自ら
の主義主張への賛同を得ることを目的としたものもある。どのような行為(ま
で)を「荒らし」と呼ぶのか一定のコンセンサスは存在しないが、自作自演行為
や意図的かつ過度なマルチポスト行為、過度に大量な情報発信、特定の個人に
執拗にまとわりつく粘着行為等が含まれる。違法性を問うことが難しい場合も
少なくないが、医師がそのような「荒らし」行為を行うことは、職業倫理の上
で戒められなければならない。
(4)医師として相応しくない(アンプロフェッショナルな)情報発信
以上を踏まえ、医師として相応しくないインターネットを通じた情報発信の
類型のうち、主なものについて以下に例示する。
①「匿名発信」、「多重発信・なりすまし発信」
「匿名発信」は、情報を発信することによる不利益を恐れて発信できない
ことが、公益や人権に反する場合には正当化され得るものである。しかし、
医師はプロフェッションの一員として、可能な限りインターネットを通じ
た発信も実名で行うことが望ましい。また、無制限に匿名発信が可能な掲
示板やメーリングリストなどには登録しないことが望ましい。
さらに、複数の仮名(いわゆるハンドルネーム)を用いて発信する「多重発
信」は、あたかも多くの人が同じ意見であるかのように見せかけることが
可能であり、理由の如何を問わず行うべきではない。その他、自分とは異
なる実在の人物を名乗ったり、実在の人物を想定させるような表現をとっ
たり、あるいは個人として実在しなくとも、ある特定の組織や集団に属す
る人物を想定させる表現をとるような「なりすまし発信」も行ってはなら
ない。

②「虚偽情報・未確認情報の流布」

「虚偽情報・未確認情報の流布」は、それだけで名誉毀損罪等の成立要件
を満たす。また、匿名による掲示板やメーリングリスト等への投稿の内容
は全て未確認と認識する必要があり、匿名により発信された情報を真実と
仮定した自らの価値判断について再投稿することも行ってはならない。
③「個人攻撃」「個人に関する情報の収集と投稿」およびその呼びかけ
自らの主張を通さんがため、あるいは私的制裁を目的として、相手の個人
としての人格を批判したり、侮辱・脅迫したり、経歴やプライバシーを公
開したり、経歴やプライバシー情報を募ったり、Wikipedia に公人ではな
い個人を扱うページを立てたりなどの「個人攻撃」を行うこと、およびそ
れらを行うよう呼びかけを行うことは、厳に戒められなければならない。
特に、医療行為に関連した傷害、ないしその疑いがある傷害を受けた患者
やその家族、彼らを支援する非医療者や医療者、医療機関や学会などの不
正を内部告発した関係者、政策の立案・実施等に関わる行政関係者、医療
に関連する記事を書いた報道機関の記者等に対するネット上の攻撃は、こ
れに加勢する発信が増えれば増えるほど、医師のプロフェッションに対す
る社会からの信頼を大きく損なうことになる。
④「差別的発言・ステレオタイピング」
「差別的発言」は、医師に対する社会の信頼を失墜させるものであり、行
ってはならない。人種、性、出身地、出身校などによる差別はもちろんで
あるが、特定の疾病や障害を有する患者やその家族に対する差別発言は特
に、医師として絶対に行ってはならない。また、特定の職業や専門領域、
組織などに所属する人々を画一的に非難する行為(ステレオタイピング)
も行うべきではない。
⑤「頻回・大容量発信」
自分の主張を延々と繰り返す「頻回・大容量発信」は、もはや主張ではな
く、「荒らし」である。多忙な医師に対するこのような発信は迷惑行為で
あり、正しい判断を阻害する。医師はこのような行為を行ってはならない
し、また「頻回・大容量発信」を行う医師向けメールマガジン等には、登
録しないことが最良の選択である。
⑥「一方的な主張に沿ったWikipedia 記事の書き換え」
Wikipedia は、誰もが編集に参加できるオンライン百科事典であり、良心
に基づくその記述にはネット社会から一定の信用が寄せられている。議論
のある問題(例えば医療過誤訴訟事案など)について扱っているWikipedia
の記事も存在するが、「一方的な主張に沿ってWikipedia 記事を書き換え
る行為」は「荒らし」の一種であり、医師は行ってはならない。また、公
人ではない個人についてのWikipedia記事を立てる行為も慎むべきである。