「ヒトのがん研究にとってチンパンジーの利用は重要だ」とする主張に疑問を呈する論文が公表されたとのことです。
「Alternatives to Laboratory Animals」誌上で公表された“An Examination of Chimpanzee Use in Human Cancer Research” という論文がそれで、こちらで読むことができます。(ATLA 37, 399–416)
下記の記事によれば、過去40年以上のチンパンジーを用いたがん研究を包括的に調査した研究とのことで、著者であるJarrod Baileyはこう言っているそうです。
「チンパンジーとヒトの間には、はっきりとした生物学的差異が存在する。ヒトとよくにた遺伝子をもち、研究産業が重要だと主張しているにもかかわらず、チンパンジーはヒトのがん研究のモデルとしてはお粗末なものだということが判明した。」
Study Challenges Importance of Animals in Research
http://www.releasechimps.org/2009/10/13/study-challenges-importance-of-animals-in-research/
以下、抄訳―
チンパンジーにとって、腫瘍は非常に珍しいもので、ヒトのがんと生物学的に違っていることもわかりました。チンパンジーでテストされた、がんの新しい治療法になるかもしれないものについて記載している文献は、種差についての重大な警告を含んでいますし、おそらく副作用のために、人では処置が続行されなかったことが記載されていました。さらにチンパンジーは、がんの抗体療法の開発にとっても不可欠でないことを示す証拠がありました。
大規模にチンパンジーを医学研究に利用しているのはアメリカだけですが、チンパンジーをそのような研究に使っても効果はないのではないかとする議論が起きています。最近、下院に大型霊長類保護法が提出されましたが、この法案は、侵襲的な医学研究や安全性試験において、アメリカに約1000人残っているチンパンジーたちを使うことを止めさせようとするものです。
この論文はこう結論づけています。
「チンパンジーががん研究に不可欠であるという主張は非科学的であり、仮にアメリカでチンパンジーの利用が禁止されてもがん研究のさまたげにはならないという結論には根拠がある。」
この論文では、エイズワクチン開発など、人の健康や病気について、チンパンジーを使った他の研究を調査した論文にも言及されていますが、その研究では、チンパンジーの利用に益がないだけでなく、むしろ人に効果のあるエイズワクチンの探索のさまたげとなってきたことが判明しています。