上映中止で揺れている『ザ・コーヴ』。

日本の野生動物をめぐるドキュメンタリーが登場したと聞いて期待していたのに、正直、最初にトレイラーを見たときには頭をかかえました。こりゃ真面目な批判を放棄して、単なるおちょくりに走ってしまったのではないか? これが日本で公開されたら、どーなるんだろう? と。

実際に全編を見てみてやっと、元イルカ調教師のオバリー氏の人生が縦軸になっていたこともあり、ドキュメンタリーとして評価されている理由がわかったような気がします。アカデミー賞をとる作品とまでは思わなかったですけど。

でも、問題になっているのは、横軸に織り込まれている「盗撮」シーンですよね…。よくもまあ、あんなにお金をかけて堂々と、みたいなやつ。彼らの国では、内部告発にもとづく隠し撮り映像などで、動物実験施設やら農場主やらを法令違反の罰金やら何やらに追い込んだりしているかもしれませんが、正直、その感覚を日本に持ち込まれても理解はされないだろうと思いました。

(日本ではイルカ漁自体は違法ではないし、さらに言えば野生動物としての管理にすら含まれていない。共通理解のための土壌すらないのかも。)

ただ、先日映画館の支配人が取材に答えて、興味深いことをおっしゃっていました。「盗撮」について、「(いけないことだとは思うが)ひとつの目安として、映倫マークがついていますから…」と。

なるほど。そういえば映倫マークの審査基準って、具体的にはどういう内容なんでしょう? 初めて映倫のサイトを見てみました。

映画倫理委員会 http://www.eirin.jp/index.html

検索してみると、『ザ・コーヴ』は、「区分PG12」という指定を受けています。

「和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を追ったドキュメンタリー。イルカの補殺とそれに伴う出血の描写がみられるが、親または保護者の助言・指導があれば、 12歳未満の年少者も観覧できます。(1時間31分)」

なるほど。問題はむしろイルカ漁のシーンというのは意外でした。

さらに、「映画倫理綱領」の内容を、ざざっとかいつまんでピックアップするとこんな感じです。


1 表現の自由  (中略)
2 人権の尊重
 (1)基本的人権の尊重は映画人の最も大切な責務である。
 (2)人間の尊厳を傷つけるような扱いをしない。
 (3)男女平等の理念を尊重する。
 (4)個人や団体の名誉、プライバシー等を尊重する。
 (5)人種や民族、出身、職業による差別的扱いをしない。また社会的弱者および少数者の権利を尊重する。

3 未成年者への配慮 (中略)

4 法と政治
 (1)平和と民主主義を尊重し、これに反する軍国主義、テロリズム等にくみしない。
 (2)あらゆる国の主権を尊重し、元首、国旗、国歌の取り扱いには慎重を期する。
 (3)ゆえなく法令や裁判を否定、ないし揶揄しない。

5 宗教と社会
 (1)信教の自由を尊重し、ゆえなくこれを軽侮、中傷し、憎悪をかき立てるような表現は避ける。
 (2)人権の著しい侵害にあたらないかぎり、それぞれの国や地域の文化的多様性を尊重する。
 (3)著しく反倫理的な行為を容認するような表現ならびに善良な風俗・習慣を乱し否定するような表現は避ける。
 (4)動物の生命および自然環境を尊重することの重要さに配慮する。

6 性、暴力、犯罪、薬物などの表現
(1)性表現  (中略)
(2)暴力表現 ― 人命を尊重し、過度に刺激的な残酷描写は避け、詳細 な殺傷描写はしない。観客にいたずらに恐怖感、嫌悪感を与えないよう留意する。
(3)犯罪表現 ― 犯罪を肯定したり犯罪者を英雄扱いしたりしないよう留意する。凶悪な犯罪や非合法の賭博など反社会的な行為を扱うとき、模倣、誘引となる描き方は避ける。未成年者や社会的弱者にかかわる犯罪の描写は最小限にとどめ、殺人、売買春などを美化、正当化するような描写は行なわない。
(4)薬物の扱い (中略)

(以下略)

映倫が「動物の生命および自然環境を尊重することの重要さに配慮する」としていることを知らなかったので、とても驚きました。(おそらくこれは、撮影のためにわざと動物に犠牲を強いたり環境を破壊したりしてはいけないということを言いたいのでしょうけれども、発見です。)

そのほかの基準も、『ザ・コーヴ』が受けている批判を退けているような気がしました。

それでやっと、上映支持の賛同者になろうと思ったんです。(別に、映画の内容がどうこうではなく上映は支持するべきなのかもしれませんが、「あんたは動物目線のバイアスかかってるから何でも見せたいんでしょ」と言われる可能性を考えると、映倫マークという第三者的な評価はありがたく感じます)

「『ザ・コーヴ』上映を支持する会・横浜」
http://blog.livedoor.jp/movie_fun_yokohama/

長くなってしまいましたが、反捕鯨・反イルカ漁に対して多くの日本人が口にする、「牛や豚は食べてもいいのか」という言葉。それはそのまま文字通り、ベジタリアンが世間に問いたいと思っていることでもあると思います。ベジタリアンというと洋物臭いけど、菜食は本来、日本では超・保守のはず? 『ザ・コーヴ』に対して日本人が感じる反発が、ぜひ逆方向、ハンバーガーやフライドチキンの排斥運動に向かわないかなぁ…と願っているところです。