昨日、海の生き物を守る会と海洋ネットが開いたシンポジウム、「海洋環境の保全」を聞いてきました。

陸の生物の研究者が比較的保全についても主張するのに対し、日本の海洋学者って、利用推進というか、魚を獲る側の立場にばかり立って主張する印象があったので、昨日のシンポジウムの最初の講演はとても驚きました。最後の質疑応答でも、同じことを言っている人がいました。やはり画期的なことだったのでは…。

その講演は、三重大学・勝川俊雄さんの「日本の水産業性の問題点と方向性」。

ざざっとメモを起こしてみると…

・日本の漁業は乱獲で壊滅状態。マイワシの漁獲量が増えていたから90年代からの衰退に見えるが、マイワシを除くと、実際には70年代から漁獲量は右肩下がりに落ちている。70年代までの漁業は焼畑的。(獲れなくなったら、獲れるところに行って獲る)

・世界でもっとも「砂漠化」の進んだ海が日本周辺海域(カナダの研究者、ダニエル・ポーリーらの研究から)。世界でもっとも人間による影響を受けている海は東シナ海(サイエンス論文)。

・日本は戦前からの乱獲で高級魚を獲りつくした。日本の水産管理は遅れている。漁獲枠があるのはたった7種だけ。ニュージーランドは94種。

・しかも、サンマ以外の漁獲枠は、生物学的許容漁獲量(科学的に、ここまで獲っても大丈夫と推定される量)を上回る設定がされている。(サンマは獲りすぎると値崩れを起こすため、低く設定されているだけ) 他の国は「最低限これ以内に」という生物学的許容漁獲量より低く設定している。

・スケトウダラ→現状を維持するためには、4000トンでなければならないのに、16000トンの漁獲枠が設定されている。がんばって獲っても、10000トンくらいしか獲れないのに。クラッシュ寸前の資源。

・日本は、税金で乱獲を推進中。漁業の構造の問題。資源が持続して始めて雇用が成り立つのに、過剰な漁獲量を維持している。政策の方向が大事なのに、休漁補償金を払いながら、燃油補填をするようなことをしている。

・養殖魚があるから大丈夫と考えるのは間違い。日本の養殖生産は25トン程度のところで頭打ちで推移。天然魚に対する養殖魚の生産量は、ごくわずか。(グラフで見ると、単位が違いすぎて、養殖魚の量はグラフの線幅程度にしかなっていない。誤差程度)

・養殖は天然魚の代替にはならない。そもそもエサに天然魚が必要!! 天然魚が安定的に獲れてはじめて成り立つビジネス。ブリ・マダイしかつくれないし。

・輸入については、日本だけが安く買い叩いて買い占められる時代は終わって、「買い負け」の時代に。しかしそもそも、競争があるのが当たり前。

・魚が食べられなくなるだけではなく、海の環境も破壊している。

・マグロの激減を指摘した研究に対し、日本は計算のあら探しをしただけ。日本の言うとおりに計算しなおしても、マグロは85%減少している。それでも、0才、1才のマグロが大量に獲られている。

・ヨーロッパウナギは、最終的に日本の食卓に上ることで、絶滅寸前までいった。結果、ヨーロッパのウナギ食文化は失われた。他国の食文化を破壊しておいて、自国の食文化と言えるのか?

・輸入は、持続的に獲ったものを、適正な価格で買う必要がある。

・「日本はもっと魚を食べるべき」というのは間違い!! 今後も食べられるのか、魚を食べる資格があるのか、この2点を考えていかないと、魚食の先はない。

・しかし消費者には、持続的に獲られた魚とそうでない魚の区別はつかない。そこであらわれたのがMSC認証。認証製品は急増中。日本ではイオングループが出しているが、アンケートを見ると、価格、おいしさ、安全性が最優先で、消費者は環境配慮を求めていない。

・確実に、子どもたちの世代は、魚が食べられなくなる。日本の漁業は、自己改革能力がない。消費者の後押しが必要。持続的な魚を適正価格で残さず食べる。

・京都府沖合いのズワイガニ漁が、日本唯一のMSC認証漁業。最初は漁協長も反対したが、保護区の周辺で大きなカニがとれるようになったことで保護区が増えていった。保護区の海底にはテトラポッドを埋めて、底引き網が破れてしまうようにした。これなら監視がいらない。
ただし、ズワイガニはあまり移動しない生物だから成功したといえる。(努力した人が利益を得ることができる。移動してしまう生物だと、どこか他の地域の人が利益を得てしまう)

・ニュージーランドは、海洋保護区先進国。漁業のみではなく、生物多様性の保護を目的としている。(特定の種の管理を目的としない)

・漁業が生態系に与える影響には2つある。一つは底引き網などの漁具が海底の構造に影響を与える。東シナ海の海底は、つるつるになっている。海の底に生きる生物が生きられない。また、生息地の分断も起きる。もう一つは、生物が直接打撃を受けること。

・保護区の効果の予測はむずかしい。やってみないとわからない。ニュージーランドの例は参考になるはず。

・日本も、国家戦略を持つべき。短期的な利益だけでなく、持続的な資源管理が必要。消費者の意識がかわることで漁業が変わるはず。

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もうかなり日本の漁業やばいぞ?って感じの内容でした。はっきりいって、魚食べましょう宣伝には辟易しているところなので、こういう情報はもっと出回ってほしいです。

関係ないですが、個人的には、魚を食べるのを止めたら、ウツっぽい状態になることがなくなりました。肉を食べないとウツになると言っている医者がいますが、私は肉を食べる量を減らそうとして魚を前よりたくさん食べてしまうことがウツの原因じゃないか…なんて心ひそかに思っています。ベジタリアンになるときは、両方を減らしていくのがやはり正道ではないかと…。

その後、海外の本なんかで同じような体験談を読みますが、だいたい原因は魚に含まれる水銀のせいだと考えられているみたいですね。もちろん科学的な根拠があるのかといえば不明ですが、天然魚であっても養殖魚であっても、相当いろいろなものに汚染されているのではないかと思います。

……と、話がそれましたが、この演者の方、翻訳本を出されたそうです。「魚のいない海」(フィリップ・キュリー、イヴ・ミズレイ著、エヌティティ出版)、ぜひ読んでみようと思っています。

サイトはこちらだそうです。
http://katukawa.com/

シンポは、海洋保護区の話題を中心にこのあとも続いたのですが、日本がアジアの中でも一番立ち遅れているようなのがまったく恥ずかしい限りに感じました。たぶん日本は、漁業に関しては漁業者の言い分しか通らないような仕組みで来てしまったのでしょう。専門家も、漁業を擁護するような人しか生き残れなかったのじゃないですかね…想像ですが。

海外では、やっぱり外圧だそうです。消費者が声を挙げたことが大きいみたい。

個人的には、がたっとスーパーから魚が消える日を見てみたい気もしますけど、それは海が滅んだ日なんでしょうね…